同クリニックでは、中耳炎や副鼻腔炎などの耳鼻咽喉科の代表的な病気の他に、神経耳科と呼ばれる領域(めまいや難聴・耳鳴など)を専門としている。重野浩一郎医師は日本めまい平衡医学会の専門会員として「良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用)」の作成に携わるなどこの分野の指導者の一人。めまいの診断と治療ならびにリハビリを行っている。特に良性発作性頭位めまい症に対して外来診療の中で耳石置換法を中心とした頭位治療を積極的に行っている。 患者主体の医療を信条として、丁寧なカウンセリングとわかりやすい説明を心がけている。
めまいは、耳からおこるめまい(内耳や内耳神経の障害)と、頭の中からおこるめまい(脳幹や小脳の障害)に大別される。重野医師は「耳からおこるめまいの割合は多く、生命の危険はないが繰り返したり日常生活が制限される。一方、頭の中からおこるめまいは生命に関わることがある」として、まず耳からおこるめまいか頭の中からおこるめまいかを鑑別し、その後どのような疾患であるかを診断することが重要だという。耳からおこるめまいであれば、メニエール病、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴などが代表的な疾患、頭の中からおこるめまいであれば、椎骨脳底動脈循環不全、聴神経腫瘍、脳幹・小脳の出血や梗塞などが代表的な疾患である。初診時あるいは再診時には、問診といくつかの検査を選択して行うことが必要となる。
検査としては、純音聴力検査、語音聴力検査、内耳機能検査、耳音響放射検査、耳鳴検査などの聴力検査や直立検査、足踏み検査、注視眼振検査、頭位・頭位変換眼振検査、回転検査、自覚的視性垂直位検査、重心動揺検査、追跡眼球運動検査、視運動性眼振検査、温度刺激検査などのめまい検査を行っている。
その他、側頭骨CTや頭部MRI・MRA(他病院へ紹介)を行う。 治療は、耳から起こるめまい(内耳や内耳神経の障害)に対しては、良性発作性頭位めまい症に対する耳石置換法(Epley法、健側下135度法や患側下135度法など)、メニエール病に対する薬物療法や有酸素運動療法あるいは効果が乏しい場合は中耳加圧治療、前庭神経炎に対するリハビリなどを積極的に行なっている。特に良性発作性頭位めまい症(半規管結石症)ではこれらの耳石置換法により翌日には約90%が完全にめまいや眼振(目がまわる症状)が消失している。
一方、頭から起こるめまい(脳幹や小脳の障害)の治療は、椎骨脳底動脈循環不全症に対する5%炭酸ガス吸入(95%は酸素)を行っている。また、内耳障害による耳鳴の治療としては、薬物療法に加え5%炭酸ガス吸入(95%は酸素)、TRT療法(耳鳴を意識しないように訓練する治療)や補聴器フィティングを行っている。
初診の際は一般的耳鼻咽喉科診察に加え、めまいに関する問診や検査を行うため約45分を要する。
2003年6月から2019年5月までの16年間(総めまい患者数:5982人) の初診時の疾患分類を示す。
メニエール病確実例:312(5%)、メニエール病疑い例:346(6%)、良性発作性頭位めまい症:1075(18%)、良性発作性頭位めまい症(疑い例):802(13%)、前庭神経炎:93(1%)、めまいを伴う突発性難聴:54(1%)、その他の末梢性めまい:1153(19%)、椎骨脳底動脈循環不全症を含めた脳循環障害:469(8%)、聴神経腫瘍など:46(1%)、その他の中枢性めまい:156(3%)、末梢性か中枢性か不明なめまい症:1476(25%)
当院で診断した脳幹・小脳の出血や梗塞は16年間で8例、聴神経腫瘍や小脳橋角部腫瘍は13例であった。
2018年1年間(総めまい患者数:360人)のめまい症例数を示す。
メニエール病確実例9人、メニエール病疑い例25人、良性発作性頭位めまい症97人、良性発作性頭位めまい症(疑い例)58人、前庭神経炎5人、めまいを伴う突発性難聴1人、その他の末梢性めまい65人、椎骨脳底動脈循環不全症を含めた脳循環障害8人、その他の中枢性めまい12人、末梢か中枢か不明のめまい症80人。
良性発作性頭位めまい症(半規管結石症)に対しては、全例に耳石置換法を行っている。耳石置換法による改善(翌日)は、後半規管型良性発作性頭位めまい症(半規管結石症)に対するEpley法は82%、外側半規管型良性発作性頭位めまい症(半規管結石症)に対する健側下135度法は95%、外側半規管型良性発作性頭位めまい症(クプラ結石症)に対する患側下135度法は60%であった。
医学博士 日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本めまい平衡医学会めまい相談医、日本めまい平衡医学会専門会員、補聴器相談医、長崎大学医学部臨床教授
検査、治療ともにすべて保険診療内。