ドクターズガイド

春の空気から肺を守る (1)
大気汚染、花粉、黄砂、ストレス

2月下旬から3月にかけて、気温が急にあがる日が混ざるようになり、そんな日は植物が急いで花粉を飛ばし始めて花粉症の患者の症状も顕著になります。これに加え、最近は中国で問題になっている汚染された空気が日本にも届き、呼吸するだけで体に害を及ぼす可能性が高くなっています。例年に増して、肺が危険にさらされている状況です。

そしてまた時期的に日本の社会の慣習として、受験、卒業、入学、就職、転職と、ストレスの多いイベントが続くときでもあり、これも肺に負担を増やします。

今回は、意外と危険な状況に置かれているそんな春先の肺について、確認したいと思います。

■増えてきた肺への負担を避けるのは難しい

人間は、呼吸によって肺から酸素を取り込み、この酸素で栄養を燃焼してエネルギーを得て、副産物の二酸化炭素を同じく肺から排出しています。酸素と肺の働きがなければ生きられません。

しかし近年、その生存に不可欠な呼吸によって、生存に不可欠な肺に、ダメージをあたえるという難しい問題がおきています。これはおおまかに言えば、文明的な社会活動によって空気中に排出される物質の種類が増え、そのなかの肺にダメージを与える物質が呼吸とともに肺に吸い込まれて蓄積し、肺にもともとある自浄作用を超えるようになったため、ということになります。

これだけでなく、特に日本は個々人にかかる日常の精神的ストレスがどんどん増えて、自律神経を圧迫しています。肺のように重要かつ自動的に活動する臓器は、体の働きを調整する自律神経の指令のもとで働いていますから、自律神経への負担は肺の負担にもつながります。

生活習慣病は恐ろしいものですが、その大部分を自分のコントロールで予防できます。しかし空気の汚染や日常のストレスは、近づいているからといってすぐになくすことはできません。まわりからなくせない以上、防御、回避を学ばねばならないのです。この時期問題になっているものについて、知っておくことは大切です。

■空気汚染

花粉症

花粉症と肺は、一般的にはあまり直接結び付けては考えられません。しかし、花粉という異物を呼吸器から吸い込めば、肺は到達してきたものを排出しようとするためにエネルギーを使い、負担がかかります。また鼻腔内で起きたアレルギー反応で鼻づまりが起き、酸素が十分とりこまれなければ、酸素不足となり、これも肺にはおおきな負担です。

pm2.5

昨年あたりから大きな話題となっているのが、「pm2.5」という呼び名で扱われている汚染物質です。p=particulate(丸い、球状の)、m=matter、material(物質)、2.5というのはその球の大きさをさし、「2.5μm(マイクロメートル)の球状の物質」という意味ですので、自然の中にも該当する物質はありますし、場所や時々でその成分は異なります。

問題なのは「2.5μm」という大きさで、スギ花粉が20μmであることを考えると、非常に小さいことがわかります。このため通常はフィルターとなる鼻や喉の繊毛を通り抜けて肺に容易に到達してしまうため、成分によっては肺に重いダメージを与えることになります。

現在問題となっているものは、中国内で大量に生み出された排煙などに由来するものが成分として含まれており、これがさまざまな疾患に結びつていると考えられています。成分についてはEC(元素状炭素)、OC(有機炭素)、NO3イオン、SO4イオン、NH4イオンなどが確認されており、それぞれの毒性や振る舞いについてはまだ明確にはなっていませんが、中国国内での重大な汚染と肺がん、喘息などの呼吸器被害の増加はすでに世界中に知られています。

空気中に含まれるものなので、春先の偏西風に乗って日本に流れてくるのは、残念ながら避けようがありません。

黄砂

黄砂もpm2.5と同じ理屈で中国大陸から日本にやってくる大気中の物質です。中国内の黄土地帯に発生した砂塵が上空の偏西風で運ばれ、日本で降下します。主成分は砂粒ですから球形ではないため、「pm」に該当しません。また平均サイズも4μmと前述の物質よりも大きめです。しかしこの砂粒には有毒なものがいろいろ付着しており、これが健康被害を招きます。問題になっているpm2.5にくらべて調査の歴史が長いので、成分と症状の対応はほぼ判明しています。

黄砂に付着している有害物質例
シリカ
黄砂の60%を占める。全身性の炎症や肺炎を起こす。ギザギザした形状なため、粘膜や肺の毛細血管を傷つける。
硫酸イオン
咳喘息、気管支肺炎、皮膚炎、目の痛み。大きさが0.6μmの化合物なのでpm2.5に属する。
硝酸イオン
アレルギー、気管支喘息。口呼吸することで喉、気管支に炎症を起こす。
重金属類
水銀、鉛、カドミウム、ニッケル、マンガン、ヒ素、クロムなどにより、泌尿器、神経、皮膚、呼吸器へのダメージを起こす。
細菌類
食中毒、カビによる肺炎など。
空気汚染は汚染物質のサイズが大問題

空気汚染で吸い込む物質は、その化学的な毒性ももちろんですが、物理的な粒子のサイズが大きな問題となります。サイズが大きければ鼻やのどの粘膜や繊毛というフィルターで阻止され、体外へ排出される確率が高まりますが、それらのフィルターをすり抜けてしまえば容易に肺へ到達し、そこで毒性を発揮するということになってしまうからです。

しかし大きなサイズの粒子にも問題はあり、表面の形状によってはフィルターまでの呼吸器官を傷つけ、炎症や感染の原因を作ります。また一粒のサイズは大きかったとしても、小さな粒子が付着していればそちらだけは、より肺のほうへと流れていきます。

■ストレスが肺に与える負担

気胸

春先は、卒業や入学、就職など、新しい環境で緊張の続くこともあるでしょう。こういったときに受けるストレスが体のどの部分に対しても負担をかけるのは間違いありませんが、肺がストレスに負けたとき、「気胸」という顕著な症状を起こすことがあります。気胸とは簡単に言えば肺にちいさな穴があいて胸腔内に空気がもれている状態で、ほとんどの場合突然発症し、主な症状は胸の痛みと呼吸困難です。再発率が高い疾患なのですぐに手術するということはほとんどなく、多くの場合は安静にして自然治癒を待ちます。

免疫低下による感染、アレルギー

またこの時期は天候の変動も多いので、自律神経にも負担がかかります。自律神経への負担は免疫の低下を招き、ウイルスや細菌感染のリスクを高め、喘息、アレルギー、肺炎を起こしやすい状態でもあります。

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