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咳が長引くとき その次の病気かもしれない

「咳がなかなかとまらない」と、マスクをつけ続けて生活している人をみかけるようになりました。咳というのは軽い風邪にもある一般的な症状ですが、一週間以上続くようだったら、もう次の病気にかかっているのかもしれません。

■なぜ咳が出るのか

咳は、気道内へのなんらかの刺激によっておこる反射作用です。その刺激が気道に入ってしまった水や痰によるものであれば単純に異物の排出ということで片付けられますが、体内で起きた刺激が原因である場合、起きていることを突き止めて解決しなければなりません。喉や肺といった呼吸器官にとどまらず、心臓をはじめとした別の臓器の疾患である可能性もあるからです。
咳は油断できない症状なのです。

■風邪以外の病気による咳

咳を症状とする病気は風邪以外にもたくさんあります。

肺炎
風邪の咳との区別がつかないが、肺炎の咳はとくに激しい。夜間に出ることが多く、一度はじまるとなかなかおさまらない。
マイコプラズマ肺炎
発熱や頭痛が3~4日続き、その間に咳がひどくなってくる。これらの症状が長引くのが特徴。中耳炎、副鼻腔炎などにつながる可能性もある。
百日咳
百日咳菌の飛沫感染による。発熱はなく、鼻水、くしゃみ、咳の順番で症状がでてくる。始めは軽い咳だが徐々に激しさを増す。最終的には激しい咳で嘔吐、呼吸困難などにつながることもある。夜にひどくなる傾向がある。
結核
咳とともに血が混じった痰が出る。感染の可能性があるので十分注意が必要。
慢性閉塞性肺疾患
肺気腫と慢性気管支炎によって起こる閉塞性肺疾患を総合したものをさす。1年以上、気道を拡張する為、痰が伴う咳が続く。喫煙が大きな要因と考えられている。喫煙習慣があり、痰を伴う咳が1年以上顕著な場合はこれを疑う必要もある。
肺がん
がんが気管支や肺を刺激して咳がでる。激しい咳と喘鳴、血痰を伴うことがある。
心臓疾患
心臓の疾患により、肺からの血液が正常に心臓に戻らず、肺に血液が溜まって咳を起こす。生まれつきの心臓疾患だけでなく心筋炎、心外膜炎などで起る場合もある。
心因性
昼間激しく、眠っている間は全く起きない。咳払いのような咳。ストレスを感じたときに起こる。
その他の病気
喘息、花粉症、肺梗塞、肺水腫、胸膜炎、降圧剤の副作用、急性咽頭炎、心筋炎、心外膜炎、間質性肺炎、がん性リンパ管症…など

■一週間がめど

原因が風邪かほかの病気か判断する基準のひとつは、症状の続いている期間の長さです。一週間をめどに、それ以上続くようでしたら、咳以外の症状がなくとも風邪ではないなんらかが原因である可能性が高くなります。

■医師に「どんな咳か」を伝える

しこれだけいろいろな可能性が疑われる症状ですから、どのような咳かを医師に伝えることができれば、正確な診断の助けになります。

  1. 乾いた咳(コンコン) か湿って痰をともなう咳(ゼーゼー)か
  2. 高い音が出る咳(ケンケン) か
  3. 急性(風邪など、きっかけがあってはじまった)か 慢性(いつもなんとなく咳がでる)か
  4. のどの痛みがあるか
  5. 発熱があるか
  6. 胸の痛みがあるか

■市販の咳止めの使用について

咳は日常生活に大きな支障となります。薬を使ってでも一刻も早く止めたいものですが、咳の種類によっては逆効果や副作用など、無視できない問題があります。

中枢性鎮咳剤
市販されているほとんどがこの種類です。シロップとして販売されることが多く、脳呼吸中枢に働いて咳を止めるよう作用します。しかし痰が伴う場合、こういった薬で強引に咳をとめると、痰の排出ができずに気道閉そくを起こし、呼吸困難につながる可能性もあります。また脳の中枢へ作用するものなので長期使用により薬物依存の危険性があり、厚労省より通告されています。
末梢性鎮咳剤
気管の過敏な反応を押さえ、気管を広げることによって咳を止めます 。痰がある場合にはこちらが望ましいのですが、咳のメカニズム自体がまだ明確でないため、確実なコントロールが確立されていないことから、一般的には販売はされていません。

結論として、痰をともなった咳には手軽に入手できる市販薬は使うべきではなく、痰がない咳であっても長期間の使用は避けるようにしましょう。

また、薬で咳を止めてしまうと、隠れている重大な病気に気づかない恐れがあることも理解しておくべきでしょう。

■肺MAC症という病気

咳が続く病気のなかでも、最近になって患者が増えてきた肺MAC症という病気をご存知でしょうか。非結核性抗酸菌症(ひけっかくせいこうさんきんしょう, nontuberculous mycobacterial infection)の略称で、結核菌の仲間による細菌感染症です。長引く咳、痰、血痰など症状は結核に似ていますが、発熱はありません。また人の間で感染は起こらず、水や土の中に潜んでいる菌に接触することで感染します。

たばこを吸う男性に多い「空洞・破壊型」は予後が悪く、1~2年で進行します。
いっぽう患者の8割を占める「結節・気管支拡張型」は、予後は比較的軽いのですが、ばらつきも多く、数年で死亡する例もみられます。

人によっては症状も軽くて人への感染もないため、気づかずにいることも多い病気です。感染から10年後に、偶然別の病気のCT検査で発見されたという例も。しかし放っておけばいつかは肺に空洞ができ、重篤な状態に陥るのは確実です。

治療は抗生物質を使うことになりますが、現状では高い効果を望める薬がまだありません。また生活環境が原因であることが多いので、ほとんどの場合繰り返し発症します。一度かかったら一生つきあう病気と考えなければなりません。

■咳が続くようなら検査を受ける

肺はいろいろな種類の細胞で構成されているという特徴があるので、病気の種類も多い臓器です。咳というのはわかりやすい症状でもありますから、長引く場合は必ず受診して病気の有無を確認しましょう。ここでもめどとするのは一週間以上という期間です。

咳が長引くという症状に対して注意深く相談してもらえない場合は、別の病院も訪ねてみることをおすすめします。

(2013.12.20.)

 


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