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冬季うつ 「寒いから眠い」わけではない

11月は、秋も深まりどんどん冷え込みが厳しくなって「冬」を実感する機会が増えます。寒いうえに曇っていたり早い時間から暗くなってくると、活発とはいえない雰囲気になるものです。しかし、疲労感や眠気がやけに強くなっていたら、単に「季節を感じている」わけではないのかもしれません。

■冬季うつとは

決まった季節にうつ病に似た症状おこる「季節性情動障害(Seasonal Affective Disorder)という疾患があります。このなかで冬のシーズンに発症するものを「冬季うつ病(Winter Depression)」と呼びます。

■症状

“冬季”とつくぐらいですから、患者本人にとっては冬のみに出る症状で、ほかの季節は基本的に異常ありません。冬季に限らず症状を感じるのであれば、別の病名の可能性を探る必要があります。

具体的な症状は「疲労感」「憂鬱」、冬季うつの特徴である「過眠」「過食」に関しては通常のうつと逆の状態であるため、病気として認識されずにいることも少なくありません。

連続して10時間を超えて眠ってしまう、こうなるとあきらかに過眠です。また過食については、特に甘いものが食べたくなり、これにともなってたいていの場合体重の増加がみられます。

■大きな要因 光の量

「寒くて力が入るから疲れるし、それで眠くなる」「寒いのが嫌いだから憂鬱」と、寒さを理由にできなくもないですが、それでは生理学的な説得力はあまりありません。医学的には「日照時間」が大きく関わると考えられています。

主に関わるのは、脳内で分泌されるセロトニンとメラトニンというホルモンです。これらが分泌されるタイミングと量が、眼に入る「光」の量に左右されるということが問題の引き金になります。

セロトニンは、満足感や精神安定をもたらす働きをします。2500ルクス以上の光を網膜が感じることで分泌が開始され、一日の早い時間からたくさんの光が眼に入れば、じゅうぶんな量のセロトニンで気分も上向きますが、光が足りなければセロトニンも不足し、うつ症状が起こりやすいということになります。

そしてメラトニンは睡眠を促すホルモンです。通常は朝、眼から網膜に光が届くとその光の量をもとに、まずは分泌される量が決まり、その15時間後から分泌が始まって睡眠へと誘導していきます。メラトニン分泌量と受けた光の量はほぼ反比例の関係にあるので、光が少ないほどメラトニンは多くなります。暗くなれば睡眠へ誘導する仕組みになっているわけです。

冬になって日照時間が短くなったり、戸外での活動が減って感じる光の量が少なくなると、メラトニンは過剰となって睡眠時間が長くなるといったことが起きます。
また光が人工のものであっても同様に作用するため、本来暗く感じるべき夜間に強い光を感じていると、今度はメラトニン分泌が抑制されて深い眠りを得られなかったり、睡眠のリズムじたいが狂うということもあります。

最近の研究では300ルクス程度の光でも長時間浴びれば分泌が抑制されることがわかりました。平均的なリビングが500ルクス、夜のコンビエンスストアやスーパーが1800ルクス前後といいますから、これらの場所にいるだけでも睡眠リズムに悪影響があるということです。

結果、実質的に睡眠不足状態になり、疲れがとれずにだるさが抜けない、集中力がなくなる、常になんとなく眠い、ということになります。

■冬季うつを治すために

高照度光療法

あびる光の量とタイミングの不都合でおきる症状なのですから、これを調整することで改善を期待できます。この考え方で代表的なのが、「高照度光療法」です。これは、人工的に2500から10000ルクスの光を適したタイミングで浴びて、体内時計のリセット、メラトニン分泌の調整を行うものです。治療を受けた7割ぐらいの人に効果があり、早ければ1週間ほどで改善されてきます。

冬季うつ、高照度光療法といったことでは、日本では専門の機関をたずねなければなりませんが、冬の日照時間が非常に短い地域もあるヨーロッパでは、大変身近な問題であり、公共施設に治療設備を整えてあるところもあります。

生活習慣で改善する

・早寝早起き
当たり前のようですが、早く暗くなる冬はより早く就寝し、少しでも光を多く感じるためにも明るくなったら早く起きるとの心がけが望ましいでしょう。
・日中にできるだけ日光をあびる
晴れている日にはできるだけ、休憩時間のちょっとした隙間にでも、戸外にでて日の光を浴びましょう。
・セロトニン生成によい食事
ビタミンB6とトリプトファンが多く含まれる食品を意識してとるとよいでしょう。

トリプトファン豊富な食品:赤身の魚、肉類、乳製品、大豆製品、バナナ、きな粉など

ビタミンB6が豊富な食品:まぐろ、さんま、さけ、レバー、豚肉、豆類、バナナなど
※ビタミンB6はとりすぎると不眠などを起こすおそれがあります

■おかしいと思ったら心療内科へ

生活の改善による対処は、健康的な内容ですから「冬季うつ」の診断がなくても心がけるとよいものです。しかし症状をつらく感じる、生活に支障をきたす、治る気がしないといった心配があれば、迷わず心療内科で相談することをおすすめします。もし「冬季うつ」と診断されても、高度照度光療法を受けるなどで充分に改善を期待できます。

■いつかは必ずなおるもの

「冬季うつ病」は季節限定の病気であり、春がくれば必ず治りますので必要以上に心配することはありません。

(2013.11.07.)


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