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岩田 誠 医師 (いわたまこと)

岩田 誠 (いわたまこと) 医師

メディカルクリニック柿の木坂(東京都)
院長 神経内科
東京女子医科大学 名誉教授

専門

神経内科(パーキンソン病、認知症、失語症、片頭痛、てんかん、神経・筋疾患、神経感染症、自律神経障害など)

医師の紹介

岩田誠医師は、継続的におおよそ200人の患者を受け持ってきた「日本で一番認知症を診てきた医師」。患者の治療から家族・介護者に対するケアの指導まで、個人を大切にし、じっくりと対話する医療が信条。東日本大震災の際には「みなさん平然としていました」という介護士の一言に疑問を抱き「認知症患者は危機認知能力に欠ける」ことを発見、火事などの非常時における介護現場の避難のあり方に警鐘を鳴らした。臨床現場を重視する岩田医師ならではの「気づき」といえよう。

診療内容

神経内科の領域全般に精通する岩田医師。慢性頭痛の名医としても知られているが、もっか受け持ち患者数が最も多いのは認知症。その数おおよそ200人は「日本で一番認知症を診ている医師の一人なのではないでしょうか」と笑う。
患者の治療から家族・介護者に対するケアの指導まで、個人を大切にし、じっくりと対話する医療が信条。
「認知症患者と言えども、理由なく徘徊したり、理由なく怒ったり、理由なく暴力をふるうことはありません。たとえば、ある老人ホームの介護職員が、一人の男性入居者が毎日夕方5時になると外へ出ようとする。部屋へ入りましょうねと言うと暴力をふるので困る、と言いました。そこで私は、その入居者が自宅にいた頃に、5時になると何をしていたのかを調べるよう指導しました。すると、この入居者は以前大きなお屋敷に住んでいて、5時になると家の雨戸を全部閉めるのが日課だったことが判明。理由がなく外に出ていたのではない、本人はやることがあると思っている。でも、施設の小さな部屋じゃやることがないから困惑していたんです。対策として、毎夕5時に、各入居者の居室に夕刊をポスティングしてもらうことにしました。もちろん介護職員が後ろから見守りながら…。そうしたら暴力行為はパタッとなくなりました。そういうものです。一見異常に見える行動も、その原因は調べれば分かる。だから調べなさいと、介護職員には言っています。でも、多くのところは調べないばかりか、お薬で行動を抑えてしまう。患者さんには何の利益もない。ひどい話です。時には、やむをえず薬を使わなければならない場合はありますが、多くの場合は、なぜこういうことをするのかを理解すれば解決できます」(岩田医師)
なるほど、神経内科医の仕事は、病気を治すだけではない。患者本人ばかりではなく、家族や介護職員も診ていることに感心したと告げると…「なんだって診ますよ。私はね、治療法について説明するときに、生きるって字を上に書いて、あなたは下になんと書きますかと尋ねます。生命なのか生活なのか。英語には、ライフって言葉ひとつだけしかない。でも漢字にすると、きちんと分けて考えることができます。生活を大事にするのか、生命を大事にするのか。本来は両方大切にすべき事柄ですが、ある程度年を取ったり、病気になったりするとどちらかを捨てなきゃならないことがある。たとえば認知症も進んでくると食事が取れなくなる。私は胃ろうをつくりましょうかと聞きます。これは生命のためで、生活のためにはなりません。それでもいいですかと。認知症の人たちは判断できなくなります。周囲の人には、自分が何を決めているのかをきちんと分かってもらわないといけない。それは選んでしまったら戻ることはできない、分かれ道です」
患者や家族には、生活か生命かの二者択一を迫るが、自身は常に、どうしたら両方を尊重できるかを考えている。その視線は優しく、注意深い。
2012年の東日本大震災の折には、患者と真摯に対峙する岩田医師ならではの気づきが、大きな発見をもたらした。
「震災の後ホームに行き、大変だったでしょうと介護職員をねぎらったところ「入居者はみなさん平然としていました」と言うんです。驚きましたね。それで調査を始めました。
地震の時に、認知症の人がどう行動したかを、一緒にいた介護者に聞いて。さらに、本人は地震のことを覚えているか、どう感じたかを聞き取り調査してみたのです。すると正常から軽度の認知症の方は、みんな自分から逃げて、いかに怖かったかを述べてくれる。ところが、認知症が重くなってくると、平然としていて、落ち着いている。何も覚えていない。怖がってもいない。それはものすごく怖いことです。認知症が重くなってきた人は、危機認知能力がなくなってしまうのです。特に心配なのは火事の時です」
以前、群馬県の老人ホームが出火し、入居者が大勢亡くなった事件があったが、その裏には、認知症患者の危機認知能力の欠如があったのではないかと岩田医師は指摘する。
「鍵がかかっていたとか、誘導がなかったとか言われていますが、私は、あの重症患者さんたちは本当に自分から逃げようとしたのか、疑問を持っています。認知症の人を火災や事故から守るには、この人は本当に逃げようとする人なのかどうかを、知る必要があると思います。老人ホームでは、一律にマニュアルを作って対応するのではなく、それぞれの入居者に、どのくらい能力が残っているのかに応じて、対策を立てなくてはならいません」
この警告が、全国に浸透し、対策が立てられるようになれば、火災等で亡くなる認知症患者はかなり減るに違いない。
「このことをいろんなところで話したら、似たような事例がいっぱい出てきました。でもその意味がわかっていなかった。逃げないで、落ち着いていてよかったなんて喜んでいる場合じゃない。こんなに怖いことはない。怖いことに、気づいてもらうことが大事。このように、観察されたことを意味づけするのも、私たち医者の役割です」
正しく診断をくだし、適切な薬を処方し、相談に乗ってくれる医師はそれなりにいるだろう。しかし、岩田医師ほど、現場でしっかりと向かい合ってくれる医師は滅多にいない。

診療を受けるには

岩田医師の神経内科専門外来は、水曜・金曜・土曜(すべて予約制)

累積症例数または患者数

神経内科医として今までに接した患者数は、おそらく一万人をはるかに超える。

年間症例数

認知症の受け持ち患者はおおよそ100人

医師のプロフィール

経歴
1967年 東京大学医学部医学科卒業
1982年 東京大学神経内科助教授
1994年 東京女子医科大学神経内科主任教授
2004年 東京女子医科大学医学部長
2008年 東京女子医科大学名誉教授
2008年 メディカルクリニック 柿の木坂設立
所属学会・認定・資格

日本高次脳機能障害学会名誉会員、日本自律神経学会名誉会員、日本音楽医療研究会名誉会長、日本頭痛学会名誉会員

[専門医等]…日本神経学会認定神経内科専門医、日本頭痛学会認定専門医

主な著書(編集・共著含む)







など多数

予防に心がけたいこと

アメリカのナンスタディという研究で、表現行動を続けている人は、アミロイドベータ蛋白というアルツハイマー病の原因物質が脳に大量にたまっていても認知症にはなりにくいという調査結果が報告されている。
年齢を重ねれば、誰でもアミロイドベータ蛋白は溜まるものだが、それでも発症をまぬがれる「アルツハイマー病に強い脳」は、創作的な手作業をすることで作れる。
折り紙、塗り絵、絵画、工作、園芸、楽器等々は予防効果があると思われる。

費用のめやす

基本的には保険診療。詳しい金額等については、同院に要問い合わせ

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