ドクターズガイド

救世主として期待される心筋再生医療

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[移植の方法]

このようにして、再生心筋細胞を作ってきれいに純化精製して、腫瘍も作らないことが明らかになった。そしてこうやって移植すれば、移植した先で十分大きくなることもわかってきた。そうすると今度はどういうふうに移植していくかということになります。

細胞の生着

まず、サルの再生心筋細胞をサルに移植するということをしたら、ちゃんと生着できることがわかりました。次に、ヒトの再生心筋細胞をブタに移植してみた。そうしたら、免疫抑制剤を適正に使えば、ヒトの心筋細胞を移植してもブタの心臓のなかで生き残ることがわかりました。心筋細胞を移植できる、ちゃんと生着しているじゃないかと。

これで次は最後の6番、「移植の方法」という課題になります。

我々はいくつもの方法を開発していますが、そのひとつが「心嚢内視鏡」を使う方法です。これまでの移植というのは、冠動脈造影をしながら冠動脈のなかに入れてあげるとか、あるいは心臓の左心室のなかにカテーテルで移植してあげるとか、あるいは胸を開いて心臓の外側から移植してあげるとか、こういういくつかの方法でされていました。

ところが冠動脈注入の場合は冠動脈を塞栓してしまうので、心筋梗塞ができてしまう。カテーテルで心内腔側から移植する方法だと、心臓は絞るように収縮するものですから、入れてあげた心筋細胞も搾り出されて、それが全身の血管のなかに流れて塞栓を起こしてしまう。開胸して直接心筋を移植する方法は一番効率がいいんですが、一回開胸すると二回目に移植するときに癒着してしまうんですね。

それで我々はこういう内視鏡で。最近、よく腹腔鏡手術っていいますでしょう。我々は内視鏡で見ながら移植針でもって細胞を移植ということを行っています。

このように、移植方法もどんどん開発しています。

[最後の課題 大量培養]

では残された課題はなにかというと、やはり一番大変なのが、2番めの課題の細胞を大量培養するということなのですね。
何が大変かというと、さきほどお話したように細胞の培養液がすごく値段が高い。現状においては500mlの培養液で6万円かかります。

-全部でどのくらい必要なのですか。

500mlでは一日もたないです。しかも大量に作らなければならないから、何十リットル、何百リットルと必要です。

ですので、我々は培養液の開発研究もおこなっています。そういう取り組みをしていかないとできない。培養液を作る段階で何が重要なのかということを理解しながらやっていますから。効率的な、しかも大量培養が可能な方法、こういうものを技術開発しているということになります。

これ以外の1、3、4、5、6の課題はだいたいできています。しかし現状では大量の培養にお金がかかります。それを国からも、企業からも支援して頂いて、技術開発ができて大量培養が可能になれば、そこではじめて人への臨床応用というのが見えてくるということになります。

これが再生医療の現状です。

[細胞シート]

-先生は細胞シートの研究もされていると伺いましたが。

はい。細胞をシート状にして回収する方法です。

体の中には血液を凝固させる仕組みとして、フィブリノーゲンとトロンビンというのがあります。フィブリノーゲンとトロンビンを作用させるとトロンビンがフィブリノーゲンを分解してフィブリンモノマーというものを作り、フィブリンはポリマーとして固まって大きな組織を作ります。
培養皿の中にフィブリノーゲンとフィブリンを混ぜていれてあげると、培養皿の上側にフィブリンポリマーの絨毯ができるんです。そして絨毯になっているフィブリンというのは、心筋細胞が出す酵素でゆっくりと溶ける性質があります。
最初にフィブリン絨毯を作ってその上に心筋細胞を入れて培養するわけですが、細胞同士がくっついたあとは細胞が分泌する酵素で下の絨毯がゆっくり溶けて、上の細胞だけを回収することができる。これで心筋の薄い組織を作ることができます。
これを四角く切って2枚重ね併せて、片側に電気刺激を与えたときに片側に伝わっているかというのを見ると、重ねて24時間後ではまだ反対側には伝わっていませんが、丸3日後になると境目がないぐらいにつながります。

細胞を再生することができて、それをシート状の組織にすることができて、それをつなぎ合わせると組織がつながることもわかってきた。これを移植したらどうなるか。ラットの背中に心筋細胞のシートを3枚重ねにして背部の皮下組織に移植したら、背中に心臓の筋肉ができました。
心筋梗塞を起こした組織のうえにこの心筋細胞シートを3枚重ねにして移植してみると、普通は外側に瘤のように飛び出てしまうところが、瘤にならない。

-これは人にも応用できるのでしょうか?

福田医師

ラットは心臓が小さくて心臓の筋肉の厚さが薄いからできますが、人は心臓の筋肉の厚さが1cmもあるので、こんな薄いのを貼っても役に立たない。十分な厚い組織をつくらなきゃいけないということになります。

-では、もっと培養が必要なわけですね。

そうですね。現在は動物実験で検証しているところです。安全性、有効性を検証しないと人には移れないですので。基盤的な技術はだいぶ克服できてきたけれど、そこがどの程度までできるか、というところです。

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(2014.03.06.)

 


 


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福田恵一先生(医師情報 ⇒)

慶應義塾大学病院 循環器内科 教授
慶應義塾大学医学部 卒業、同大学院修了。国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部国内留学、米国ハーバード大学医学部分子医学研究室留学、米国ミシガン大学心血管研究センター留学ののち、慶應義塾大学医学部助手。2005年より同大学再生医学教授、2007年より医学部長補佐、北里記念医学図書館長を経て、2010年より循環器内科教授。