ドクターズガイド

救世主として期待される心筋再生医療

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[ヒット作 心筋細胞の純化精製]

そのあと、このできた心筋細胞を移植するために、きれいに純化精製することが必要です。そのためにはどうしたらいいんだということになるわけですが、それが最近の我々の研究の中では、最もヒット作。心筋細胞をきれいに純化精製する方法というのを開発しました。

開発にあたっては、まずは心筋細胞とiPS細胞とES細胞、それぞれ細胞としての機能がどのくらい違うのか、というのを調べてみました。そうすると、細胞ごとに代謝が違う。種類によって、必要なエネルギー源が違うのです。細胞はどれもかならずブドウ糖を取り込んで、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸というふうにどんどん代謝され、形を変えて、最終的にピルビン酸というものに変わる過程は同じです。しかし、まずES細胞を解析してみると、代謝過程のグルコース-6-リン酸を材料として核酸やアミノ酸を作っている。これを材料に次の細胞を作ってすごい勢いで増殖していき、最後にできたピルビン酸は乳酸に置き換えられて細胞外に排出されます。

これに対して、心筋細胞は、同じくブドウ糖を取り込んでも、増殖性が乏しいために核酸やアミノ酸はほとんど作らない。そして、代謝の最後にできてきたピルビン酸を細胞内のミトコンドリアに取り込んで、エネルギー源であるATPに大量に合成することがわかりました。この両方の違いをもって、心筋細胞だけを生き残らせたいと考えました。それではどうすればいいか。培養液の中からブドウ糖を除去して乳酸を添加してあげればいいのではないかと考えました。これは心筋細胞には乳酸を細胞内に取り込むトランスポーターが多数存在し、取り込んだ乳酸をピルビン酸に転換できる性質を持っているからです。ES細胞、iPS細胞はブドウ糖がないとたちまち死んでしまいますが、心筋細胞はブドウ糖がなくても、乳酸を取り込んでピルビン酸に変え、エネルギー源にして生き残ることができるからです。実際に、ES細胞から作った拍動する心筋細胞の培地を、ブドウ糖を抜いて乳酸を加えた培地に変えるとどういうことが起きるか。心筋細胞は拍動を続けますが、ほかの細胞はみるみる死んでしまうのです。

-そうすると心筋細胞だけ純化精製できるのですね。

そうです。それで心筋細胞だけとりだすことができます。ブドウ糖がなくて乳酸が入った培養液にすると、5時間後にはES細胞はまったく生き残っていない。ところが、心筋細胞は24時間たっても96時間たってもびくともせずにずっと拍動を続けている。これで心筋細胞だけを集めることができます。

-ここまでにたいへんな時間がかかってますよね。

5年ぐらいかかっています。けれども、この切り口が再生医療を大きく前進させることに成功しました。純化精製していないES細胞を免疫不全マウス(人の細胞を拒絶しないマウス)に移植すると、9割ぐらいの割合で奇形腫ができますが、こちらを移植してもぜんぜん奇形腫ができない。これで腫瘍形成をしない純化精製法が完成したわけです。

我々が目指す心臓再生医療

[小さな心筋組織として効率的な移植]

次に、これを移植したいということになります。できた心筋を培養皿から取り出して注射器を使って移植したいと思うわけです。しかしそうやって移植すると、確かに生着する細胞はあるんですが、数えてみると我々が入れた細胞の3%ぐらいしか残っていない。

-流れてしまうんですか。

そう、流れ出てしまったりするんです。ということで、これから先は最後の課題の「移植法」ということになります。

細胞がバラバラの状態で移植すると、どうしても流れ出てしまったり、細胞そのものが弱くなってしまうので、きれいに純化精製にしたものをもう一回細胞の塊にしたのです。ES細胞でもiPS細胞でも同じですが、できてきた心筋を、1000個の心筋細胞からなるひとつの塊にして移植しました。心筋細胞の凝集塊、我々は心筋球(Cardiomyocyte balls)と呼んでいます。心筋の小さな組織ということになります。

-それはくっつくものなのですか?

心筋細胞同士は強固にくっつく性質があるのです。

それから、心筋細胞というのは胎児期には非常に小さいのですが、大人になると、数は増えませんがひとつひとつの細胞のサイズが大きくなって全体として大人の心臓の大きさになります。これに対し、再生した心筋細胞でも、移植したあとにちゃんと大きくなることがわかりました。

それで人の心臓はどのくらいの心筋からなっているかというと、重さとして350グラムくらいなんですね。それが大人の心臓の重さなんです。では心不全の人にどのくらい移植したら心臓の筋肉の回復が見られるかというと、100グラムくらい移植してあげればかなりよくなる。もちろん元通りにはならないにしても、心不全で寝たきりだった人が動けるようには十分なるわけです。

ですから最終的には100gくらいの心筋を移植したい。ただ試験管のなかで100gの心筋を作るというのは、莫大なお金がかかります。無理ではありませんが、培養液が高価なのです。試験管のなかでこれだけ大きくなるのを待っているわけにはいかない。 でも0.5グラムくらいだったら、培養液もそこまではかかりません。だからそれを移植したあとに3ヶ月、半年たって心筋が大きくなってくれれば、十分心筋細胞移植として役に立つ。

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福田恵一先生(医師情報 ⇒)

慶應義塾大学病院 循環器内科 教授
慶應義塾大学医学部 卒業、同大学院修了。国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部国内留学、米国ハーバード大学医学部分子医学研究室留学、米国ミシガン大学心血管研究センター留学ののち、慶應義塾大学医学部助手。2005年より同大学再生医学教授、2007年より医学部長補佐、北里記念医学図書館長を経て、2010年より循環器内科教授。