ドクターズガイド

救世主として期待される心筋再生医療

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[簡便で安全なiPS細胞樹立の方法]

安全性が高くて効率的なiPS細胞を樹立する方法として、我々がまず最初に開発したのが、血液の中のTリンパ球という細胞を使うということです。なぜそんなことを考えたかというと、それまでは元となる細胞の採取に皮膚のバイオプシー(*1)が必要だったからです。

iPS細胞を作る目的はいろいろありますが、皮膚の細胞から作るということは、もとにする細胞を皮膚に穴をあけて取ってこなきゃならない。でも、若い女性や小さなお子さんは(たいていはお腹の)皮膚のバイオプシーには抵抗がありますよね。痛いから嫌ですもんね。
たとえば、あなたの命を助けるから皮膚をください、これはオーケーかもしれません。だけど我々としては、病気のメカニズムを解明したり、病気の新たな治療薬を作らなければならない。いろいろな病気の患者さんからiPS細胞を作りたい。そのときに、安全に、なおかつ患者さんに優しく痛みを伴わない樹立の仕方を考えようということで、採血のときに残った血液からiPS細胞を作ることを考えました。

採血のうちの0.1cc、ほんのわずかな血液からTリンパ球というのを増殖させて、山中先生が見つけた四つの因子をそのTリンパ球にいれるのですが、そのときに「センダイウイルス」というウイルスを使うことにしました。ウイルスは遺伝子を細胞のなかに入れることができるのですが、センダイウイルス以外のウイルスは、細胞の核の中の染色体に入ってしまうのです。センダイウイルスは細胞質の中だけに存在するので、核の中の染色体が壊されない。ですから、非常に安全なのです。なおかつ血液とセンダイウイルスの相性も非常にいい。それでわずか0.1ccの血液から、しかも、1ヶ月たらずで、初心者がやっても比較的容易にiPS細胞ができてしまう。これで核の染色体を傷つけないでなおかつ非常に効率的に、患者さんに優しい方法でiPS細胞を樹立することができました。

これで6つの課題のうちのひとつが解決できました。

採決による細胞培養

*1: 生検。臓器や組織の一部を採取し,切片を顕微鏡で検査すること。

[効率的に心筋細胞を作る]

次に、2番目より先に3番目の「心筋細胞を効率的に作る方法を考える」ということをお話しましょう。

もともと受精卵からは、ほうっておいても人の心臓はできてきます。それは、心臓が作られる領域にある幹細胞に、心筋ができるように誘導する細胞増殖因子とかサイトカインとかいわれるものが発現してくるからです。このため、その場所には心筋ができてくるのです。体の場所によって違うものが順番に発現してくるから体のあちこちにいろんなものができてくるわけです。じゃあそれを突き止めればいいのではないかと思いました。

そこで、我々はいくつかの細胞増殖因子を突き止めてきました。例えば、noggin、Wnt(ウイント)といわれるもの、G-CSFといわれるもの。G-CSFというのは、骨髄から造血幹細胞を血液の中に追い出してやる、あるいは顆粒球といわれるものにする、という作用をもつものです。でもこれは血液の研究者が最初に見つけていて、名前も「G-CSF(顆粒球コロニー形成因子)」というものですから、みんな血液にしか働かないと思っていました。

ところが、我々が解析してみたら、胎児の心臓にこのG-CSFが非常にたくさん出ています。しかも、心筋細胞そのものがその受容体を持っていて、自分が分泌したG-CSFの刺激を自分自身が受けている。私は以前、国立がんセンターの研究所に国内留学をしていました。その時にがんの細胞が、自分が分泌した細胞増殖因子を自分自身で受けて自己増殖的にふえていくという現象を見て、非常におもしろいと思ったことがあったのです。それがヒントになって、G-CSFが実はがんの増殖因子のように働いているのではないかと推測しました。

心臓というのは胎児の比較的早い時期に完成するのです。体のほかのところがまだできていないうちに全身に血液を循環させなきゃいけないから、心筋が先にできるのです。大量に細胞増殖するのですが、そのときにこのG-CSFを使っているのです。それでG-CSFが細胞増殖するということがわかりました。iPS細胞から心臓の筋肉をつくり、これをさらに増殖させて、大量の心筋細胞が得られるようになってきたわけです。

これで1番(iPS細胞の樹立)、3番、4番(心筋の生成と増殖)は解決されました。

心筋の生成と増殖

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福田恵一先生(医師情報 ⇒)

慶應義塾大学病院 循環器内科 教授
慶應義塾大学医学部 卒業、同大学院修了。国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部国内留学、米国ハーバード大学医学部分子医学研究室留学、米国ミシガン大学心血管研究センター留学ののち、慶應義塾大学医学部助手。2005年より同大学再生医学教授、2007年より医学部長補佐、北里記念医学図書館長を経て、2010年より循環器内科教授。