ドクターズガイド

低気圧と体調の関係 自律神経の葛藤

天気が悪くなると体調がすぐれなくなるのは、珍しいことではありません。そのほとんどは自律神経の状態に起因するものと考えられています。自律神経の役目のひとつに、外部環境の変化に体を適応させる仕事があり、天気による体調の変化とは、気圧の変化に対応しようとする自律神経がちょうどいい加減をさぐって葛藤している状態ともいえるのです。

■天気が悪い→低気圧

天気が悪くなるというのは、非常に簡単にいえば、高い気温で温められた海水や空気が蒸気となったり山にぶつかったりして上にあがっていき、冷たい上空で冷やされて水滴になって落ちてくる、という理屈です。この現象が強い勢いで発生し、地球の自転の力も加わわって渦となった状態が台風です。そして空気が上にあがってしまったあとは、当然空気の量が少ない、すなわち「気圧が低い」状態になります。こうして、「天気が悪い=気圧が低くなる」という図式になるのです。実際にはもっいろいろとと複雑な要素もありますが、おおまかにはこのイメージといえるでしょう。

■体への物理作用

こういった気圧の変化はまず、体に物理的な影響を及ぼします。となりあった物質は平均化しようとするので、圧力の低いほうへと流れようとしますね。人間の体は「水の袋」と形容できるほど水分が多く、水分は流動的ですから、圧力の低い空気中へ向かおうとし始め、細胞内の水分も外に向かって膨張することになります。これがむくみの一因になったり、血管が拡張して血圧が下がると考えられています。また頭の血管が膨張すれば頭痛、喉の血管が膨張すれば気道が腫れて喘息という症状ににもつながるわけです。そのほかにも、温度が高いので汗をかきますが、雨が降りがちで湿度が上がりますから汗が十分に蒸発せず、これもむくみにつながります。

■自律神経が低気圧対応を開始

自律神経は、こういった物理的な変化のほかに呼吸から「酸素が薄い」、目から「光が少ない(暗い)」、また内耳にかかる圧力の変化で「気圧が低下した」ことを感知します。そしてこれらの条件を「活動に適さない環境」と判断して、二種類の自律神経のうちの「副交感神経」を優位に働かせ、体を「休息とエネルギー蓄積のモード」に切り替え始めます。このモードでは以下のような状態へと調整します。

  • 血圧、血糖、心拍低下
  • 疲労感、意欲低下
  • 分泌、排泄機能活性化
  • 食欲増加、消化吸収促進
  • 心身のリラックス状態

低気圧になるとだるい、眠い、疲れるという症状を感じるのはこのためです。「今は活動には適さない。じっとしていなさい」という体からの指令ということです。しかし台風の接近のようにいきなり大きく気圧が低下し始めると、副交感神経の急な調整が行きすぎて、「不調」と感じるほどになってしまうのです。

■注意すべきは「急激に下がるとき」

自律神経の調整がその変化に少しずつ同調して追いついているなら、それほど大きな不調原因にはなりません。追いつかない、もしくは行きすぎてしまったとき「不調」と感じます。問題なのは「気圧の変化の最中」であり、特に「急激に低下するとき」が要注意です。

また同じ気圧の変化であっても、高くなるとき、すなわち天気が良くなっていくときには、物理的な悪影響はあまりありませんから、不調が出ることも少ないと考えられます。

■ヒスタミンによる追い打ち-アレルギー症状、弱点が強くでる

これに加えて、ヒスタミンという体内物質の分泌による追い打ちがあります。ヒスタミンは外部刺激があると肥満細胞といわれる細胞から分泌され、免疫活動に指令を出す働きをします。しかしこれも過剰に働いてしまえば、花粉症を代表とするアレルギー症状となります。最近、低気圧にさらされるとヒスタミンの分泌が増えることがわかりました。副交感神経の過剰な働きに加えてヒスタミンの過剰な作用も加わり、「不調」もひどくなってしまうことになります。

  • 免疫の過剰反応→アレルギー症状
    (鼻水、くしゃみ、かゆみ、喉のはれ等)、関節の痛み
  • 血管浸透性を増す→血管から水分がにじみ出る→いっそうむくみ
  • 血管拡張作用→いっそう血圧がさがる

低気圧によるヒスタミン分泌促進に関しては詳細なしくみは完璧には説明されていませんが、異常な気圧の変化を「外部刺激」ととらえていると考えられます。

■自分のウイークポイントが対処のポイント

このように、低気圧による不調の原因多くは自律神経が追いつかないこととヒスタミンの過剰分泌によるものです。ということは、ただでさえ自律神経に負担がかかっている更年期女性、普段から冷え気味のサラリーマンや若い女性、睡眠サイクルが良くない人はだるさやむくみが多いかもしれません。花粉症のひどい人は花粉症と同じ症状が出ることもあるでしょう。喘息や頭痛もちの人は発作に注意が必要でしょう。また急な反応ですので、いつもよりも症状がひどくなる可能性もあります。

しかし言い方をかえれば、自律神経への負担になる暑さ、冷え、睡眠不足を避け、自分のアレルギーの対症療法を前もって準備しておけば、かなり軽減できる可能性があるということです。

■気候変動に賢く向き合う

地球全体の気候変動という言葉もすでに一般化し、多くの人は最近の荒れ具合で身をもって感じています。また温暖化については文明に責任があるという話もありますが、地球自体のリズムでもあり、CO2対策で和らげることはできても、私たちが生きているあいだは完全に避けることはできないでしょう。

であるならば、嘆いているばかりでなく、自分の体を自分で守る工夫は、できる限り自分でしていかなければなりません。そのひとつとして、今後増えていくだろう「低気圧」に対処する知恵をつけておくのもよいのではないでしょうか。

 

(2013.9.6.)