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中村 敬 医師 (なかむらけい)

中村 敬 (なかむらけい) 医師

東京慈恵会医科大学附属第三病院(東京都)
病院長 精神神経科
診療医長、森田療法センター長 東京慈恵会医科大学 精神医学講座教授

専門

森田療法、不安症(不安障害)、うつ病

医師の紹介

中村敬医師は、東京慈恵会医科大学附属第三病院の病院長、精神神経科の診療医長であり併設の専門病棟を有する森田療法センター長および森田療法学会の理事長を務める。同センターでは森田療法を行っており、強迫症、不安症(パニック症・社交不安症など)といった従来神経症と呼ばれていた病態や、うつ病・うつ状態の患者に対し、病状に応じて、薬物療法と森田療法を中心とした精神療法を統合して治療にあたっている。中村医師は、うつ病の自然回復を促す養生法として、森田療法の活用を提唱。うつ病に罹っているという現実をあるがままに受け入れ、回復の時期にふさわしく生活を調整していくこと、回復期には徐々に休息から活動に移行し、心身の健康な働きを助長していくことが養生のポイントだという。

診療内容

同センターでは、強迫症、パニック症、社交不安症やうつ病の患者などに、20床の専門病棟に入院して、森田療法を実施している。
日本で生まれ、独自に発達した「森田療法」。森田療法は、同院精神神経科・初代教授の森田正馬(もりたまさたけ)氏が自らの神経症体験を通して創始したもので、その森田療法誕生のきっかけとなった神経症体験が「パニック症」である。
パニック症とは、もともとは不安神経症と呼ばれていたが、1980年から急性発作が起こるものを「パニック症(パニック障害)」、持続性のものを「全般不安症(全般性不安障害)」の2つに分けるようになった。パニック症の中心的な症状は、繰り返し起こるパニック発作。強い恐怖または不快を感じる、動悸、心悸亢進、心拍数の増加、発汗、震え、息切れなどの症状が突然起こり、数分以内にピークに達する。たいてい数分から数10分で納まる。こうした身体症状は、急激な自律神経の緊張によるもの。発作を繰り返していると「また起こるのではないか」という予期不安が起きるようになり、発作が起きそうな場所や状況を避ける「広場恐怖」に進行する患者も多い。

森田正馬氏は以下のように述べている「たまたま心臓病による苦悶の死を目撃した中年男性がいる。神経質な性格で不安になりやすい人物だ。そんな彼がある日、たまたま一過性の心悸亢進を自覚した。元来過敏で、しかも心臓病死を目撃してしまった後だけに、非常な死への恐怖が湧きあがった。それで注意が心臓に行くと、さらに不安が募り、ますます心臓に注意が行くようになり、絶えず心臓をモニターしている状況になることで心悸亢進が進む。こういった注意と身体感覚の悪循環によってパニック発作は進行する」
パニック症とは、不安が不安を呼ぶような心理的な悪循環が介在して起こる。単純な身体(脳)病ではなく、生物・心理・社会的な要因が絡み合って起こる障害といえる。

パニック症に対して、最近広く行われているのは、SSRIなどの薬物療法。使用することで不安の軽減とパニックを起こりにくくなるが、薬をやめた時の再発が高率で起こる。不安を完全に除去するような治療を患者が希望し、医者もそれを目指すと、際限なく薬を使うようになってしまう。なかには一生薬を飲むことをすすめるドクターもいる。薬は味方にもなるが、ずっと飲み続けなければいけないものではなく、どこかで薬を卒業するためにも、適切な心理療法が必要なのだという。

外来治療で薬物療法と併用しながら森田療法を行う場合、治療の出発点はパニック症に対する適切な知識を患者に伝えること。
「パニック発作とは、強い自律神経の症状が特徴ですが、患者さんが心配しているような、死んでしまうとか、コントロールをなくしてしまうようなことは起こりえません。過呼吸を伴う場合は例外ですが、それ以外は通常卒倒することはないとお話しします。患者さんでよくあるのが、発作が起きて、病院の救急に飛び込んだ、あるいは救急車を呼んで受診したことがある方々です。救急の先生は一通り調べて、過呼吸状態があれば対応するし、過呼吸がなく心電図検査などをしても問題がない場合は、抗不安薬の注射等をして、特に異常がありませんよと言って、帰されてきたというのです。それだと、いつまで経っても、同じことの繰り返しになります。最初に、起こっている事態がパニック発作で、パニック発作とは時間とともに自然におさまるものだということを分かってもらわなければなりません。そうしたことが体験的に判ってくれば、パニック症は半分治ったようなものです」(中村医師)

病気の性質について理解した後は“生活の立て直し”をめざす。
「患者さんは発作を繰り返すうちに、不安になる場を避けるようになり、生活範囲が狭まり、普通の生活が送れなくなっています。つまり、病気を恐れて、病人の生活に陥っているので、この構図に気づいてもらいます。そのときには森田療法では、必要な行動に踏み込むように指導します。たとえば、発作が怖くて乗れなかった電車に、おっかなびっくり乗っていくような行動が必要なんですね。そのときに患者さんは往々にして、途中で不安になった、あるいはパニックになったから、上手く行かなかったと考えがちです。これを気分本位とか症状本位と呼びます。それに対して、我々治療者が大事にするのは、行動の目的を果たしたかどうかです。たとえば電車に乗って隣の駅へ行って、そこにある店で洋服を買ってくること。道中発作が出たかどうかではなく、必要な洋服を買って帰れたら成功だと評価します。さらにもう1つ、乗り物恐怖になっている人は、乗り物に乗ることだけを目標におきがちです。行動療法とはそういうことで、避けていた行動、症状に関連した行動を、段階的にちょっとずつやらせます。しかし、森田療法では、症状に関連したことだけでなく、生活全体を充実させていくことを奨励します。ただ乗り物に乗れればいいのではなく、家にいても、毎日不安に駆られて無為に過ごした時間があったとすれば、家にいてもできることを探して行動してもらう。あるいはなにか役立つことや楽しみになるような行動を探してやってもらう。家にいても、あるいは外に出かけても、それなりに日々の生活が充実していくようにすることで、不安に振り回されずに生活できるようになることが、森田療法の目指すところであり、本当の意味でパニック症がよくなっていくということです」(中村医師)

森田療法とは…神経症の不安や恐怖を排除するのではなく「あるがままにおくこと」で「とらわれ」から脱出するという点、また、自分の中にある健康な力や自然治癒力を最大限に生かしていくという特徴を有する。
「恐怖や不安はより良く生きようとする欲望(生の欲望)と表裏一体のものであり、人間誰もが持っている自然な感情です。しかし神経症に陥る方は、不安や恐怖を「あってはいけないもの」として「排除しよう」とするあまり、かえってそれにとらわれるという悪循環に陥ってしまうのです。森田療法では、不安を「あるがまま」に受け入れながら、よりよくより良く生きようとする欲望を建設的な行動という形で発揮し、自分らしい生き方を実現することを目指しています。さまざまな体験によって、不安や悩みを受け入れながら、症状への「とらわれ」から離れることができ、本来の健康な欲求が生かされてくるよう導いて行きます。回復の原動力は、患者さんの「じぶんはこうありたいという想い」です。それを補助し、引き出してあげるのが我々の役割です」

森田療法は、パニック症の他にも、社交不安症(社交恐怖)、戸締まりの確認や手洗いなどを繰り返す強迫症といった様々な「神経症」の領域を対象としており、心理相談機関のほか、治療に取り入れている精神科医も多い。また神経症以外に、長引いたうつ病や、ストレスが身体症状に現れる「心身症」の治療に使われることもある。

診療を受けるには

中村医師の外来担当は水曜・金曜の午前。初診の場合は中村医師宛の紹介状が必要。

累積症例数または患者数

パニック症(パニック障害)の累積患者数[個人]は約1,000例。

年間症例数

パニック症(パニック障害)の年間初診患者数[個人]は約30例。

医師のプロフィール

経歴
1982年 東京慈恵会医科大学卒業
1986年 同大学院単位取得
1991~1992年 ブリティッシュ・コロンビア大学留学(カウンセリング心理学学科客員助教授)
1995年 東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科 診療部長
2007年 同病院副院長、東京慈恵会医科大学森田療法センター長
2008年 東京慈恵会医科大学 精神医学講座教授
2014年 東京慈恵会医科大学附属第三病院 院長,精神神経科 診療医長
現在に至る
所属学会・認定・資格

日本森田療法学会(理事長)、日本サイコセラピー学会(理事)、日本精神神経学会(代議員)、日本心身医学会(代議員)、日本精神病理学会(評議員)、日本うつ病学会(評議員)、日本不安症学会(評議員)、多文化間精神医学会(評議員)、内観医学会(評議員)など

主な著書(編集・共著含む)



ほか

予防に心がけたいこと

よく睡眠を取り、生活リズムを整えること。コーヒーなどカフェインを多く含む飲料やアルコールの過剰摂取を控えること。

費用のめやす

外来、入院診療共、健康保険が適用される。森田療法の入院治療を受ける場合は、健康保険負担分に加えて室料差額がかかる。

発信メディア(ホームページ、ブログ、Twitter、facebook等)

森田療法センター: