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全身の病気の危険を減らすためには、口の中の状態
に注意を続けることが重要


歯を失う原因は、大きくむし歯(う蝕)と歯周病とに分けられる。以前はむし歯のほうが原因として多かったが今は減少し、歯周病が約4割程度になっている。厚生労働省の調査では、80歳以上で自分の歯を20本以上持つ日本人は30%を超え、維持している歯数が増えたことで、高齢者層における歯周病の増加傾向が示された。そして成人の8割以上、初期段階の歯周病罹患者をすべて含めると5000万人が歯周病の症状を持っていると推測される。さらに近年示されている歯周病の全身の病気に及ぼす影響について、歯周病治療の権威でもある、日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座 沼部幸博教授に聞いた。

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-ここ数年、歯周病が体に与える影響について、注目されていますね。

1998年、アメリカの新聞「USA TODAY」で「Floss or die」というタイトルで紹介された記事が広く知られるようになったきっかけです。「歯磨きをして長生きしますか。それともそれを怠って早く死にますか」というメッセージがアメリカ全土にセンセーショナルに広がったのです。歯周病にかかっている方の心臓病(心内膜炎、狭心症、心筋梗塞)や脳卒中(脳梗塞)、肺炎(誤嚥性肺炎)、低体重児出産・早産の危険性が高くなるという研究報告は大きなインパクトがありました。そのあたりから、口の中の健康状態と全身との関係が強く見直されるようになり、日本にもその風潮が押し寄せ、すでにテレビの健康番組では何度も取り上げられました。現在、口の中の病気を予防したりきちんと治療することは、体全体の病気のリスク(危険性)を減らすための大切なキーワードです。

-歯周病と糖尿病との関係について教えてください。

歯周病は生活習慣病の中に唯一含まれる歯科の病気で、食習慣と喫煙と関連があります。また、糖尿病に罹っている人は歯周病が悪化しやすく、治りにくいことが知られています。その原因ですが、糖尿病の方は免疫抵抗力が低下しているので細菌の感染を受けやすいのです。歯周病も口の中の感染症のひとつなので、歯周病の原因細菌が歯茎の中に侵入して悪さをしやすい、すなわち歯周病にかかりやすく、治りにくいということになります。しかし、90年代後半からその反対に、歯周病に罹っている人は、糖尿病がコントロールしにくいということがわかり始めてきました。歯周病を治すと血糖値が低下するという事例が報告され始めてきたのです。現在、糖尿病の人が歯周病治療を受けると、グリコヘモグロビン(HbA1c)の値が0.4程度下がるという研究報告があります。これはどういうことなのでしょうか?口の中に歯周病の部位があるということは、その歯茎の中の炎症のある場所に、歯周病の原因細菌や様々な炎症物質が存在しているということです。そして歯茎の中の毛細血管は全身につながっているので、そういう物質が毛細血管を通して、体全体に供給されるのです。肝臓、筋肉、脂肪細胞などは、インスリンを使って蔗糖(砂糖)を分解する力を持っていますが、それらの物質がその作用を妨げ、インスリン抵抗性を生じさせているということが考えられています。つまり口の中に歯周病があることは、火薬庫があって体中に爆弾を提供しているようなものです。また先ほどの心臓病などに加え、最近は関節性リウマチ、認知症、がんなどとの関連も言われています。よって、様々な全身の病気の発症や悪化の危険を減らすためには、口の中の状態に日々関心を持って、注意を続けることが重要です。また、何か気になることがあったらすぐに相談に乗ってくれるかかりつけの歯科医院を近くに確保しておくと良いでしょう。

- 歯周病のセルフケアと治療について教えてください。

先ほどの話からもわかるように、口腔ケアは私たちの健康寿命(寿命を全うする前に健康でいられる期間)のアップに欠かせない要素です。ただ、虫歯になる人は減ってきていますが、歯周病に罹る人はあまり減っていません。歯周病の原因はプラークなので、それをなくせば良いはずなのに、これはそれをきちんと取るのがいかに難しいかということなのです。歯周病には生活習慣に大きく起因するタイプのものと、先天的(遺伝的)な要素があって若い頃から進行しやすいタイプのものがあります。多くの場合は前者なので、やはり日々の生活習慣をいかにきちんと維持してゆくかが鍵となります。また、先天的原因がある場合でも、炎症を引き起こして病気を進める張本人はプラークですので、それをきちんと歯の周囲から除去するブラッシング、すなわちプラークコントロール法を習得する努力が必要となります。これは患者さん自身が行う治療でもあるのです。
また歯周病の治療はこのプラークコントロールと、プラークが固まって石のようになった歯石を除去するスケーリング、さらにそれを完全に取り除くために行う歯周外科手術などが行われます。さらになくなってしまった歯の周りの組織をより良く治すための歯周組織再生療法を行う場合もありますが、これが可能なのは重度の歯周病でなく、中等度程度の歯周病までです。いずれにしても、比較的進行した歯周病の治療を希望する場合には、学会の認定する認定医、専門医を受診するのも良いと思います。日本歯周病学会のホームページには専門医、認定医の先生方の一覧が出ているので、まずはお近くの先生に相談することをおすすめします。

(2014.02.24.)

 


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沼部幸博歯科医師(医師情報)

日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座 教授
日本歯科大学大学院修了後、日本歯科大学歯学部歯周病学教室専任講師。1989年よりカリフォルニア大学サンフランシスコ校歯学部歯周病科客員講師ののち、日本歯科大学歯学部附属歯科専門学校歯科技工士科講師、1993年より同大学歯学部歯周病学教室助教授、2005年より同大学歯学部歯周病学講座教授を経て、2006年より日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座教授(学部名変更)。現在に至る
日本歯周病学会指導医、日本歯科保存学会指導医、日本レーザー歯学会認定医、厚生省外国人臨床修練指導歯科医、日本歯周病学会理事、日本歯科保存学会理事、国際歯科研究学会(IADR)会員。