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デング熱 輸入感染症にどう備えるか

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現在、国をあげて訪日旅行者の増加に取り組み、企業もグローバル化を推進し、2020年には東京オリンピックも控えています。海外を行き来する人が増加すると、同時に増えるのが「輸入感染症」のリスク。2014年から問題になっているデング熱に焦点を当て、その特徴や対策について、国立感染症研究所 ウイルス第一部第2室 室長 高崎智彦医師に聞きました。(2015年8月14日現在)

― 2015年は、中東呼吸器症候群(MERS)が近隣諸国で流行しています。2014年は日本でもデング熱の国内感染が起こり、大きな問題となりました。近年の輸入感染症の状況をどう見ていますか。

MERSは、韓国でもサウジアラビアでも、ほぼ院内感染が原因とされています。そう簡単に日常生活で空気感染することはありません。ウイルスの性質上、感染拡大のリスクはそれなりに抑え込めるかと思います。それはデング熱も同様です。

デング熱についていえば、日本でデングウイルスを媒介するヒトスジシマカは、青森や北海道を除く日本中に生息します。そのため、2014年に発生した国内感染は、起こりうる状況ではあったと思います。下図の通り、海外からの輸入症例は毎年あり、2010年以降は200人を超えています。実は気づかなかっただけで、数年前からちょっとした国内感染はあったのかもしれません。ただし、ヒトスジシマカに実験室で、デングウイルスを感染させると、0.2~0.5%の確率で卵にウイルスが伝播しますが、冬の間風雪にさらされる環境では孵化率が低下し、デングウイルスが卵の中で越冬し次のシーズンにつながることは難しいと見ています。2015年も国内感染が起こるとすれば、海外からの輸入症例が発端になるでしょう。

その他、蚊が媒介する感染症の1つに、チクングニア熱があります。日本では2014年に16の輸入症例がありましたが、国内感染はまだ確認されていません。デング熱と同じヒトスジシマカが媒介するため、自治体などによるデング熱対策が強化されれば、それほど広まらないのではないでしょうか。
とはいえ、基本的に、どの国においても輸入感染症のリスクはゼロではない、と考えてください。

デング熱患者数

― 日本でデング熱の国内感染が起きるのは、実は2014年が初めてではなかったとか? 

デング熱は海外から輸入される感染症だと思われがちですが、1942~1945年にかけて大規模な国内感染が起きています。南方戦線からの復員兵がデング熱を持ち帰り、神戸・大阪・広島・呉・佐世保・長崎を中心に国内感染が起き、約20万人ものデング熱患者が出たのです。

この流行は、終戦の翌年には終息しました。理由は、まず南方から戻る人がいなくなったこと、そして、ヒトスジシマカが繁殖する水たまりがなくなったことです。戦時中は焼夷弾に備えて多くの防火水槽が作られ、そこに産卵してヒトスジシマカが増える状況でした。戦後は兵士が帰る、蚊が増える、という状況がなくなったのです。加えて、米軍がDDTを使用したことも影響しているでしょう。

― デング熱の症状と治療について教えてください。

デング熱は、日本ではヒトスジシマカが媒介する病気で、感染者の血を吸った蚊がウイルスを運び、別の人を吸血することで感染します。ヒトスジシマカの卵が孵化する5月中旬から流行し、11月頃におさまります。人から人に直接感染することはありません。
典型的な症状は、高熱、頭や目の奥の痛み、筋肉痛など。赤く小さな発疹が出る点もデング熱の特徴の一つですが、発疹が出るタイミングは発症後2~3日経過してからです。また、必ずしも発疹が出るとは限りません。

デング熱の潜伏期間は3~7日です。しかし、発病する1~2日前に、すでにウイルス血症になっている可能性が高いことが確認されています。ウイルス血症とは、ウイルスが血液中に存在し、全身を回っている状態です。ウイルスの中には、インフルエンザのように気道の粘膜でしか増えないタイプもあれば、腸管の粘膜でしか増えないタイプもあります。日本脳炎もそうですが、蚊が媒介するウイルスはだいたいウイルス血症を起こします。

治療については、現在のところ対症療法だけです。輸液のほか、アセトアミノフェンを用いて解熱・鎮痛を図ることになります。

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