ドクターズガイド

熱中症 危険な気候(1)

7月に入ってほぼ毎日のように「熱中症に注意!」のニュースを耳にします。温暖化で…という理由のいかんはともかく、現在の日本の夏が、場合によっては生存をおびやかす気候なのだということは、しっかり認識しなければいけません。体力のない老人や子供を守ることはもちろんですが、社会人こそ、きちんとした対応をすべきです。社会を動かす中心となっている重要な年代なのですから。

■人間が生きられる温度

熱中症とは、簡単にいえば体のオーバーヒート。外部環境からの要因によって、体温が上がりすぎた結果、生命機能が正常に働かなくなった状態です。
人間が生存できる限界の環境温度というものは、正確にはわかりません。現状では、文明の助けを借りて+50℃から-50℃の地域まで人は暮らしていますが、生物としての体だけでそこまで耐えることができないのは確かです。自分の限界と環境を客観的に把握しなければ、生きることはできません。

■「汗が出る」ということ

日本人の場合は、たいてい気温が30℃を過ぎたあたりから汗をかき始めます。これはすなわち、周りの環境が30℃以上になると、生きていくのに都合が悪いほど体が温められてしまう、気化熱を利用して体温を下げよう、という体の防衛作用。体にとっては、すでにその時点で異常事態ということです。暑い環境においては

「汗が出る」=「汗が必要な状態である」=「体が対処を必要としている」

ということを忘れてはいけません。
何も対処せずにこの状態が進み、発汗が体温上昇に追い付かなくなると、「熱中症」に突入します。脱水、筋肉の収縮異常、血流の異常、最終的には細胞破壊で死に至るということになるのです。

また高齢になると温度に対する感度や反応が鈍くなるために、気温があがっても「暑く感じない」「汗がでない」という場合があります。暑さを感じないうえに汗もでませんから、体温は容赦なく上がり、症状が進むまで気づきません。熱中症で命を落とす高齢者には、このパターンが多いと思われます。

■熱中症の進行と対処

ではその症状はどんなもので、起きた場合にはどう対処すればいいのでしょうか。もし熱中症と思われる状態が起きたら、医療の専門家にゆだねるのはもちろんですが、それまでの間、どの段階かをある程度判断したうえでの応急処置がとれればベストです。熱中症はその進み具合の程度によって病名が分けられ、症状、対処の方法も少しずつ違います。正しい応急処置を行うためにも、ぜひ知っておきましょう。

軽度の症状

日射病

炎天下での活動、またそれに伴う脱水で発症します。日光によって血管が拡張したり、運動によって血液が筋肉に多く流れることで、一時的に血流量の不足が起きる、一種の貧血状態ともいえます。
[症状]めまい、嘔吐、脱力。体温はそれほど高くなく、ほぼ38℃以下。多量の発汗で皮膚は湿って冷たい。血圧低下がみられる場合がある。

熱痙攣(ねつけいれん)

炎天下にかぎらず、高温多湿の環境で活動し、大量に発汗したときに水分のみ補給した場合、ナトリウム不足による症状があらわれます。
[症状]痛みをともなう各部筋肉の痙攣、嘔吐、腹痛。体温はそれほど高くなく、ほぼ38℃以下。発汗があり、皮膚が温かく蒼白。過呼吸、脈が速くなる。稀に赤い尿、意識障害。

【対処】

日射病、熱痙攣ともに、涼しいところで仰向けに寝かせて安静。水分と電解質を補給する。スポーツドリンクが適しているが、500mlの水に食塩5グラムを溶かした水溶液でもよい。血圧が低くなっている場合は、足を少し高くして寝かせる。

中程度の症状

熱疲労(ねつひろう)

日射病と熱痙攣で起きる障害を一度に起こした状態です。高温多湿での発汗によるナトリウムの不足と脱水、血管の拡張と筋肉への血流増加にともなう一時的な血液の不足状態(循環不全)が起きます。熱疲労になると放熱がうまく行われず、体温が上昇し、対処が遅れると熱射病へと進行します。以下の症状がみられたら、すでに軽症とはいえません。一刻も早く医療機関で処置を受けましょう。
症状:倦怠感、頭痛、めまいが現れ、続いて血圧の低下、頻脈、軽い意識障害。体温は40℃以下。発汗があるが、皮膚は蒼白で冷たい。

【対処】

基本は日射病・熱痙攣同様。涼しいところでの安静と水分、電解質を補給を行った後、医療機関を受診する。病院では点滴治療を行うことが多い。

重度の症状

熱射病(ねっしゃびょう)

熱疲労がより重症化した状態です。体温が上がり続けると体温調節中枢がダメージをうけ、危険な高熱状態となります。41℃で痙攣があらわれ、42℃以上で細胞破壊が始まります。この状態が続くと全身の臓器が障害をうけ、多臓器不全に陥ります。
症状:強い倦怠感、多量の発汗、口の渇き、頭痛、吐き気、あくび、足がふらつく。体温が40℃を超える。ある時点で発汗がとまり、皮膚が乾燥、熱く赤くなる。昏睡、痙攣、頻脈、低血圧性ショック。

【対処】

すぐに医療機関へ。移動中もできるだけ涼しい環境で体全体を冷やす。気化熱による冷却がもっとも効率的なので、水やスポーツドリンクを霧吹きで吹きかけたり、濡らしたガーゼ、タオルなどで体を覆ってうちわであおぐ。冷たい缶ジュースなどを脇の下や股など、動脈が集まる部分にあてて冷やすのも有効。
脳の腫れによる中枢への圧迫(脳ヘルニアによる障害)を避けるため、頭を少し高くしておく。

■天気や感覚ではなく、「環境」に注意

熱中症というと炎天下での活動時に起きるイメージが強いものですが、原因は「高温な環境」による「体温の異常な上昇」ですから、この条件がそろえば場所を問わず、また曇りであろうと雨であろうと起こります。温度だけでなく湿度が高い場合、汗はたくさんかいても蒸発できません。その結果、気化熱による体の冷却が十分にできず水分だけは排出するという、まさしく熱中症の要因となります。体育館だからと油断した学生が倒れてしまうのは、こうした熱中症なのです。

そしてもうひとつやっかいなのは、必ずしも暑さの自覚にはかかわらないということです。死亡に至る高齢者の多くは室内にいて、暑さを感じないからエアコンを使わず、気づかないうちに熱中症となってしまいました。

感じる感じないにかかわらず、それぞれの体の限界を超える体温の上昇や脱水があれば熱中症を起こします。「自分は暑さに強い」と慢心していると、ある瞬間に倒れ、その時にはすでに重症という可能性もあるのです。

熱中症 危険な気候(2)予防:「明日のために」は間に合わない →

(2013.7.10.)