2004年にパニック障害の治療ガイドラインについて、厚生労働省の研究班が発足。熊野宏昭医師は2005年第2代班長を務める。現在、早稲田大学心理相談室において相談及び相談補助員の指導にあたるほか、複数のクリニックで、心身症、摂食障害、パニック障害、軽症うつ病などを対象に診療を行う。薬物療法や面接治療に加え、リラクセーション、認知行動療法、アクセプタンス&コミットメント・セラピー、近年、注目されているマインドフルネスなどの行動医学的技法を用いるのが特徴で、効果も高く評価されている。
熊野医師によれば、不安は心の警報装置なのだそうだ。
「人は危険や恐怖が迫ると、心拍数や血圧などを上げることで危険を回避しようとします。これは一種の防御反応です。普通であれば、この反応は時間とともに軽減して、やがて消失していくものなのですが、そこで感じる身体症状などに過度にこだわってしまうと、いつまでも不安感が収まらないで、逆に不安が増してしまうことがあります」(熊野医師)
つまり、心の警報装置が過剰反応をしてしまっている状態なのだ。ただし、たとえパニック症状が起きたとしても、発作は10分以内にピークに達し、通常であれば20~30分程度でおさまるものだという。
「ですから救急車で受診したとしても、病院に着く頃には症状が消失していて、そのまま帰されることが多いのです。また身体的な検査をしても、どこにも異常なところは発見されず、自立神経失調症や過呼吸症候群、心臓神経症などと診断されることも多いです」(熊野医師)
治療は確実な診断をおこない、適切な薬物療法によって、残遺症状を含めて発作を完全に消失させることが重要だという。
「発作が消失すれば、予期不安は通常問題のないレベルまで改善します。ですから、まずは発作を抑えることを考えます。それでも解消できないようなケースでは、認知行動療法やマインドフルネスを活用して、治療していきます」(熊野医師)
マインドフルネスとは、自分の思考や感情に巻き込まれずに、目の前の現実を客観的に捉えるような心の使い方を意味しているが、それを活用したACTやMBCT(マインドフルネス認知療法)といった心理療法が、近年わが国でも注目を集めてきている。薬物療法や認知行動療法など、不安に関わる症状を取り除こうとする治療で改善されなかった症例に対して、大きな効果を上げることがある。熊野医師は、日本のマインドフルネスの第一人者であり、不安障害やうつ病などの精神疾患患者の治療にその技法を活用している。
「私の専門は心療内科なので、いつも心と脳と身体のバランスを考えながら診させていただくことを心がけています」という熊野医師。
心療内科は火曜・金曜の15時~18時に診療。初診の申し込みは電話で受け付け。紹介状はあれば持参する。初診時待ち時間:30分~1時間程度。熊野医師の治療を受けたい場合、1~2ヵ月の待機期間が必要な場合もある。
パニック障害135名、社交不安障害130名程度
年間初診数、パニック障害15名、社交不安障害10名程度
日本認知・行動療法学理事長、日本マインドフルネス学会副理事長、日本不安障害学会理事、日本心身医学会評議員、日本摂食障害学会評議員など
不安は誰でも経験する自然な感情です。無理になくそうとしたり、心理的にパニックになったりしないで、そのままにしておくことができれば、時間が経つと消えていることが多いものです。心を閉じない、呑み込まれないで、目の前の現実を客観視するようにしましょう。
診察は保険診療。心理士によるカウンセリングでは、60分で6,500円程度。