ドクターズガイド

東海林幹夫 医師 (しょうじみきお)

東海林幹夫 (しょうじみきお) 医師

弘前大学医学部附属病院(青森県)2病院のクチコミ
神経内科
教授 科長

専門

臨床神経内科学、内科学、脳血管障害、認知症、アルツハイマー病(診断・治療の開発・バイオマーカーの開発)、神経変性疾患の病態解明

医師の紹介

認知症の診療と研究のスペシャリスト。神経変性疾患や末梢神経・筋疾患の診断及び治療で全国トップレベルを誇る同科の科長として診療に当たるほか、自身の研究テーマであるアルツハイマー病の病態研究をはじめバイオマーカーの研究開発にも取り組み、早期診断・早期治療の重要性を説く。『認知症疾患治療ガイドライン2010』の作成委員として、前ガイドラインの改訂作業にも携わる。著しい進歩を遂げる認知症診療についてTV番組等でも解説し啓蒙活動にも努める。

診療内容

人口の高齢化とともに認知症の患者は増加し、世界では約3,000万人、日本では約250万人と推計される。アルツハイマー病(AD)は認知症患者のうち約半数を占めるといわれている。認知症は65歳以上の人の10人に1人は発病するといわれている。今後の高齢化の進展に伴い、患者数がさらに増大することが予想され、早急の対策が迫られている。そうした背景もあり、認知症の研究は各国で活発に行われており、ここ10年で飛躍的な進歩を遂げ、診療水準も飛躍的に向上している。とくに治療薬の開発や画像診断、バイオマーカー等による早期診断法の確立などが大きい。アルツハイマー病の発病メカニズムについてもその全容が次第に解明されつつある。アルツハイマー病に特徴的な病理変化には脳における老人斑と神経原線維変化の蓄積がある。老人斑は脳の神経細胞の外側にアミロンドβ(以下Aβと略す)というタンパク質が蓄積して凝集したもので、蓄積したAβがシナプスの情報伝達を阻害し、記憶障害を引き起こすと考えられている。
さらに細胞内においてはタウタンパク(物質輸送に関与する微小管の部品)がリン酸化されて神経細胞の軸索に凝集する。この神経原線維変化はやがて神経細胞を死滅させ、記憶障害などさまざまな認知機能障害を引き起こす。発病に至る過程ではまずAβの蓄積が十数年かけて徐々に進み、その過程でリン酸化されたタウタンパクの蓄積による神経原線維変化が始まるという「アミロイド・カスケード仮説」が提唱されている。
いずれにしろ、Aβの蓄積がAD発症の引き金になるという点についてはほぼ定説となっている。このアミロイド・カスケード仮説に基づき、Aβやタウを標的にした根本治療薬の開発が進められている。現状ではまだ、実現するに至ってはいないが、各国で意開発にしのぎを削っている状況である。
現在、日本で発売されている薬は4 種類あり、いずれも症状の進行を遅らせるもので、軽度から中等度であれば、かなりの効果が発揮できる。逆に高度になってからではその効果はあまり期待できない。というのは症状が出てくる前に、脳の中ではすでに何十年もかけてAβの蓄積及びタウタンパクの変性が進行しており、はっきりとした症状が出る頃にはすでに病態がかなり進んでいる。終期といっていい状態に及んでいて、脳はすでに不可逆的な変性を遂げてしまっているという。東海林医師は「症状が出る段階ではすでにAβを除去しても症状を止めることはできないことが明らかになり、より早期に治療を開始すべきだという認識が高まっている」と言う。従来のCTやMRIではアルツハイマー病と確定できる指標がなく、また、脳の萎縮など異常が確認できたときにはすでに症状がかなり進行しているため、早期発見は困難だった。そのため、バイオマーカー等による早期診断への期待が集まり、世界的にバイオマーカーの研究が進んでいる。日本では東海林医師らによるバイオマーカーとしてのAβ42の研究が成果を挙げている。Aβ42はアミノ酸が42個からなるAβで、脳内にAβが蓄積すると脳脊髄液の中のAβ42は低下するという性質がある。その性質を利用して、Aβ42の低下をアルツハイマー病のバイオマーカーとして活用する方法である。さらに東海林医師は合わせてAβ40の測定を提唱している。Aβの蓄積が始まると、脳脊髄液中のAβ42が減少し逆にAβ40が増えてきて、病気の進行に伴ってその差が大きくなるため、両Aβの差を確認することにより正確な診断を行うことができるためだ。もう一つの指標として脳脊髄液中のリン酸化タウの値がある。神経細胞が死滅する過程で脳内に蓄積したリン酸化タウが脳脊髄液に流れ出す。こうしたリン酸化タウの脳脊髄液内での増加は脳梗塞などで脳の神経細胞の一部が壊されても上昇することがあるため、Aβなどほかのバイオマーカーと総合的に判断することで有効な指標となる。リン酸タウの値が普通の人と比べて3倍程度多ければ、アルツハイマー病の疑いが強いと判断される。この2つの方法は世界標準のバイオマーカーとなりつつあり「SPECT(スペクト)」(脳の血流状態を画像で診断する検査。アルツハイマー病の患者の場合は脳の帯状回後部の血流が低下する)とともに、アルツハイマー病の早期診断及び軽度認知障害(MCI)群のアルツハイマー病発症予測マーカーとして非常に有効であるとされている。軽度認知障害(MCI)群の50%がアルツハイマー病に移行するといわれているが、MCIの段階で治療を開始すれば、薬物療法による治療効果も高く、アルツハイマー病への移行もかなりの割合で阻止できる。東海林医師らは早期の治療開始がなにより肝心であるとし、そのためのバイオマーカーによる早期診断を提唱している。脳脊髄液検査は腰に針を刺して髄液を採取する腰椎穿刺を行う。この髄液検査はこれまで保険適用外であったため、一部施設のみの実施に止まっていたが、2012年4月から保険適用になったことで普及に拍車がかかりそうだ。費用は6,800円(このうち患者負担は1~3割)である。
こうした認知症診療の発展を反映した『認知症疾患治療ガイドライン2010』が発表された。東海林医師も作成委員として参画、2002年版の全面的な改訂版として編纂されている。今後の患者数の増大に伴って機会が増すであろう非専門の医師による認知症患者の診療活動にも有用になるようわかりやすく説明されている。地域連携などの社会的課題についても言及しており、認知症患者とその家族の生活面の指導に役立つ内容も盛り込まれている。東海林医師は「このガイドラインの普及により認知症診療に役立てられ、1人でも多く患者さんとその家族の方々の救いとなればこれほどの喜びはありません」と語る。

診療を受けるには

紹介状持参。紹介状がない場合は「保険外併用療養費制度に基づく特別の料金」(3,150円)を自己負担する。東海林医師の診察は、パーキンソン外来:月曜、新患外来:火曜・木曜、物忘れ外来:水曜。
八戸市立病院「ものわすれ・神経内科疾患外来」:毎月第4金曜日(9:30~12:00 予約制で1日5名まで)

医師のプロフィール

経歴
1980年 群馬大学医学部医学科卒業。同大学医学部神経内科入局
1983年 老年病研究所附属病院神経内科
1984年 群馬大学助手
1990年 群馬大学講師
1991年 米国ケースウェスタンリザーブ大学留学
1993年 サンド老化及び老年医学研究基金受賞
2001年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科神経病態内科学助教授
2006年 弘前大学附属大学病院神経内科長、同大学大学院医学研究脳神経内科学講座教授として現在に至る。
所属学会・認定・資格

日本神経学会専門医・指導医・評議員、日本脳卒中学会専門医・指導医、日本内科学会認定医・指導医、日本老年医学会指導医・代議員、日本認知症学会理事、日本神経病理学会、日本神経科学学会、日本老年精神医学会、日本神経治療学会、日本神経感染症学会、米国神経科学学会

予防に心がけたいこと

週3回30分以上のウォーキングなどの有酸素運動を心がける。運動することによってAβが分解されアルツハイマー病予防となるといわれており、新ガイドラインでも定期的な運動を推奨している。生活習慣病はアルツハイマー型認知症の危険因子であることが明らかになってきている。高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の予防に努め、とくに魚の油であるDHAとEPAを積極的に摂取する。そのほかがん予防や抗炎症、抗アレルギー作用があり、コレステロールの低下や血圧降下なども報告されており、生活習慣病予防には欠かせない栄養素といえる。サバ、サンマ、イワシなどの青魚に多く含まれるので、こうした魚を積極的に食卓にのせるようにする。食品では赤ワインに含まれるポリフェノールの一種「レスベラトロール」が学習機能や記憶を司る脳の海馬を活性化することが報告され、認知症予防や改善が期待されている。適量はグラス2、3杯程度。飲み過ぎにはくれぐれも注意を。
そのほか緑黄色野菜や果物を十分にとり、食べ過ぎずにカロリーは控えめにする。
生活面では社会的な活動に積極的に参加し、人との交流を持つ。好奇心を失わずに新しい物事にも挑戦する姿勢を保ちたい。日常的に一つことに偏らず、総合的に脳を使う習慣を身につけることで、脳の老化を防止することができる。とくに計算ドリルなどを解く必要はないが、日記をつける、暗算で計算することなどは効果がある。そのほか料理や園芸、手芸、日曜大工、楽器演奏などの趣味を持って、創意工夫しながら自発的に物事に取り組むことが脳にはよいとされる。20~30分の昼寝をすることも脳を活性化してアルツハイマー病の発症リスクを下げるといわれている。ただし、1時間以上になると効果がないばかりか害になる場合もあるので注意したい。