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弘世貴久 医師 (ひろせたかひさ)

弘世貴久 (ひろせたかひさ) 医師

東邦大学医療センター大森病院(東京都)61病院のクチコミ
糖尿病・代謝・内分泌センター
センター長、教授

専門

糖尿病・代謝・内分泌学

医師の紹介

医局員糖尿病治療のうちでも、特に薬物療法、インスリン療法に詳しい。2型糖尿病に対して単に血糖値を下げるのではなく、病態に応じた介入が必要であるとし、経口薬は膵β細胞(インスリンを分泌する細胞)への負担がより少ないものから処方し、内因性インスリンが枯渇する前にインスリン治療を始めることを提唱。インスリンを遅滞なく導入し、計画的なステップアップを含む確実かつ安全な血糖コントロールが重要であるとしている。自身のブログでも動画をまじえて糖尿病の予防と治療法、糖尿病との賢い付き合い方を解説し、症状がでにくい糖尿病は検診によって早期発見、早期治療が重要であることを説いている。

診療内容

2007年の厚生労働省の調査で糖尿病の推定患者数(糖尿病が強く疑われる人)は890万人と推測され、さらに「糖尿病の可能性を否定できない人(境界型、アメリカではプレ糖尿病と呼ぶ)」は1,320万人にのぼる。しかも、糖尿病が疑われる人の約4割がほとんど治療を受けていないという現状があり、事態の深刻さを増している。糖尿病は症状がでにくいため発見されにくく、自覚症状が出たときにはすでに重症化しているという怖さがあり、弘世医師は検診による早期発見、早期治療がなにより重要と説く。
糖尿病になる前にはほとんどの人が境界型(過去2ヶ月の平均血糖値を表す数値であるヘモグロビンA1Cが5.6%以上、6.1%未満であることが条件になるが、正確な境界型の診断にはOGTTが必要)といわれる状態にあるが、この段階ですでに正常値よりも血糖値は高く、心臓や脳などの血管障害はすでに始まっていることがわかってきた。検診などで境界型だからと安心はできず、すでに深刻なコンディションであることを理解しなければいけない。
この十数年、2型糖尿病(肥満や遺伝が原因で膵臓の機能が低下する)に対する新規の糖尿病治療薬が続々と登場し、治療方法も様変わりしてきている。弘世医師は新しい治療薬を積極的に導入することで、合併症(糖尿病腎症や網膜症などの細小血管症や脳血管障害や虚血性心疾患など大血管症)の発症・進展予防などにも考慮した治療法を提唱している。現在、年間の透析導入の44%の人が糖尿病腎症であることを考えても、合併症を防ぐことは早急の課題だといえる。
2型糖尿病にとって「インスリンは最後の砦」といわれ、それだけ効果が高い治療法であるといえ、インスリンの高い効果を余裕をもって使用することが最も治療の成功に繋がると弘世医師は言う。1980 年代後半までの2型糖尿病の治療法は、食事・運動療法からスタートし、血糖値が思うように下がらなければスルホニル尿素(SU)薬を処方し、SU 薬の投与量が極量に達しても血糖値をコントロールできなければ中間型インスリンを朝に1回注射するというもの。
「余裕のないぎりぎりの治療を段階を経てステップアップしていく治療法は、最善な治療にたどり着くまでの時間の浪費となったり、その間に膵臓の分泌能力の低下や合併症の進行につながる場合が多くなります。インスリン治療を最後の砦にしないで早期に使用することにより膵臓の機能を保持し、合併症の進行を防止することにもつながります」(弘世医師)
また、2型糖尿病におけるインスリン治療において、SU薬などの経口血糖降下薬との併用は保険適応ではないが、外来においてのインスリン導入時などの際には併用されることも少なくない。弘世医師はインスリンを導入する際もSU薬はすぐに中止する必要はなく、血糖コントロールがある程度落ち着いてから中止する方が急激な血糖コントロールの変化をきたさないのでより安全に行えるとしている。
2型糖尿病患者に外来でインスリンを導入する際に基礎インスリン(Basal)と追加インスリン(Bolus)のどちらから開始すべきかについては、弘世医師はBasalで導入して、Basal-Bolusに移行する方がわかりやすいとしている。それは十分量の基礎インスリンを補うことで内因性および外因性の追加インスリンを効率よく働かせることができることと、Basalから開始した方がその適量を決めるのが容易なためとしている。
「日本ではインスリン療法はBolusから導入されることが多いが、最終的に頻回注射が必要となるケースが多い日本人ではこれもひとつの選択肢となる。ただし、良好な血糖コントロールが得らない場合にはBasalを躊躇せず併用することが重要である」と指摘している。
逆にBasalから開始した場合、空腹時血糖値の正常化を目指した後も血糖コントロールが不十分な患者ではBolusの追加を段階的に行うことを決して忘れてはならない。多くの患者ではBasalのみでの良好な血糖コントロールは困難であり、計画的なステップアップを含む確実かつ安全なインスリン導入が重要であるとしている。
インスリン療法導入に際して遅滞が起こりやすい背景には、注射だけは避けたいと思う患者が多いことと、医療側にもインスリン導入への迷いや躊躇があり、インスリン療法に切り替え時を先延ばしてしまうといったことがある。弘世医師はインスリン療法に対して医療側が正しく認識すると同時に、患者側のインスリン注射への抵抗を払拭していくことも重要な課題であるとしている。
インスリンの針は髪の毛ほどの非常に細い針なので、刺しても全く痛くないということが意外に知られていない。患者自身で腹部に針を刺すだけなので非常に簡単である。
「患者さんは注射に対して恐怖を感じている方が多いので、安心していただけるように常に注射をポケットに入れて持ち歩き、診察の際に実際に体験をしていただいています。実際に見て、経験していただくということが一番、理解が早いと考えています」(弘世医師)
また、インスリン治療を始めたら、一生、止められないと思い込んでいる人も多いが、多くの2型の患者の場合は「導入前の状態に戻る」という意味ではいつでも止めることができる。インスリンは注射であることから麻薬のようなイメージで習慣性や依存性があるなどといった誤解があり、やめても禁断症状がでることももちろんない。(1型糖尿病のようにインスリンがないと命に関わる場合もあるのは注意)
また、インスリン治療をすると膵臓のインスリン分泌の機能が衰え、インスリンを全く分泌しなくなるのではないかという心配をする人もいる。これも間違いで、むしろインスリン治療をすることで良い血糖値を保ち、インスリンを出す膵臓のβ細胞が常に守られた状態で維持されるため、場合によっては働きがより活性化されインスリン治療の必要がなくなることも少なくない。インスリンは膵臓から分泌される血糖値を下げるホルモンであり、治療に使われるのはヒトインスリン製剤といって、健康な人から分泌されるインスリンと同じアミノ酸配列で作られているため副作用はほとんどない。異物である内服薬を飲むよりもずっと安全な治療とも考えられる。
現在ではインスリンアナログ製剤など様々な種類のインスリン製剤が開発されており、注射してから数分後に作用が現れる超速効型から1日1回の投与で基礎分泌が補充できる持効型、両者の混合型などがあるので、食事や運動といったタイミングに併せて調節しながら使用することが可能である。昔のヒト型の速効型インスリンは約30分後に効果が現れるため、インスリンの効果のピークと血糖が上がるピークの一致するタイミングをはかり食事の30分前に打つよう決められていたが、現在はインスリンアナログ製剤である超速効型の登場により、食事の直前に注射でき、打ち忘れた場合にも食後すぐに打つのであれば取り返しがつくというメリットもある。また、Basalインスリンもやはりアナログ製剤である持効型の登場によりこれまで中間型が眠前の注射に限られていたものを1番打ちやすいタイミングで選択できるようになった。
インスリンの有効性の裏返しで低血糖を招く場合があるが、より低血糖を起こしにくいインスリン製剤も開発されてきている。
実際の治療に際しては、弘世医師は患者に一方的に押し付けるといった命令系ではなく、患者自身が目標を決めて実行するという方法を取っている。
「自己決定理論といいますが、まずは患者さんご自身で目標を立てる、自分でどうするかを決めることが大事です。決めたことは命令されたことよりも守ることでき、“やろう”という意欲が湧いて来るからです」(弘世医師)。そして上手くできたら患者と一緒になって心から喜び、患者の努力を認める。
大森病院仕事に追われてなかなか治療に専念できない環境にある人も多いが、そういう人は「全てを一度に改善するのは無理なので、百の改善すべき場所があるとすると、そこを九十にすることから始められたらよいと思います」と弘世医師は言う。日常的に遅くまで働いていると、血糖値が上がる生活パターンに陥るケースが多くあるので、午後6時~7時くらいにおにぎり1つで良いので軽く間食をすることを勧めている。軽く間食をすることで深夜に帰宅してからの過食を避けることができるからだ。

診療を受けるには

初診外来は火曜午前。初診時は要紹介状。それ以外の曜日も第3土曜、日曜以外の午前、他の医師が受診し、以後の診察は月、木で可能。

医師のプロフィール

経歴
1985年 大阪医科大学医学部医学科 卒業、大阪大学医学部第三内科研修医
1992年 大阪大学大学院医学研究科内科学修了 博士号取得、米国国立衛生研究所(NIH)研究員
1995年 大阪大学医学部第三内科
1997年 西宮市立中央病院内科医長
2004年 順天堂大学医学部代謝内分泌学講座講師
2006年 同大学大学院先任准教授(当時の呼称は助教授)
2012年 東邦大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌学分野教授
所属学会・認定・資格

日本内科学会(専門医・指導医)、日本糖尿病学会(評議員、専門医・指導医)、日本内分泌学会内分泌代謝科(専門医・指導医)、日本医師会認定産業医

予防に心がけたいこと

糖尿病は生活習慣病の1つとして捉えられており、その原因は運動不足、食べ過ぎ、ストレス過多などの好ましくない生活習慣があげられるが、それだけではなく、遺伝的な体質であることも大きな割合を占めていることを忘れてはならない。糖尿病になりやすい体質と糖尿病を悪化させる生活習慣の2つが、ある閾値を超えると糖尿病を発症すると考えられる。
糖尿病になりやすい体質であるかどうかは、親族に糖尿病あるいは太り気味の人がいるかどうかでわかる。もし、いる場合には糖尿病に対する注意がとくに必要であるといえる。ただし糖尿病は多くが多因子遺伝(いくつもの遺伝要素が積み重なって発症するため世代を超えて発症することもある)であるので、現在、親族に糖尿病の人がいないからといって安心することはできない。
糖尿病の体質を抱えている人は生活習慣に悪い所がないのにも関わらず糖尿病を発症することもある。逆に体質や遺伝などの要因がほとんどなくても、食事の後、横になってテレビを見てポテトチップスを食べるなどの生活習慣の乱れが原因で、糖尿病になってしまう場合もある。
ご飯やパン、油を使ってない料理であっても、血糖値が高くなれば余剰な炭水化物は全て短時間で中性脂肪に変わるので、すでに過剰になっているのにポテトチップスを始めとしたスナック菓子などの非常にカロリーの高い食品を寝ながら食べる生活をしていると糖尿病の発症につながる。
また、電車のドアが開いた瞬間に一目散に席を求めてしまう人には太っている方が多いという統計がある。立っているだけで、座っている場合よりも基礎代謝において2割~3割は多く熱量を使うといわれている。電車で立つことを心がけるだけで体重の増加を抑え、さらには糖尿病の予防につながる。
日常生活では近い距離でも車や電車に乗らずに歩くなどこまめに体を動かすほか、食事の際には腹8分目を必ず励行し「もう少し食べたいな」と思う所で箸を置く。
食事に際しては最初に脂質や炭水化物を摂らず、野菜から食べ始めるように心がけることにより、血糖値の急激な上昇が防げ、糖尿病の発症はかなり予防できる。必ず3度の食事にご飯やパン、麺類といった炭水化物の主食に、肉や魚といった主菜を加え、たっぷりの野菜を摂るというバランスのよい食事をするという糖尿病の食事療法は糖尿病予防にもなる。今、流行りの低炭水化物ダイエットは主食を摂らなくても結局はおかずを食べ過ぎたり、間食をしたりして体重増加につながるという落とし穴がある。やはり栄養の偏らない味わいあるバランスのよい献立を心がけ、食べ過ぎず、腹八分目を守ることが大事である。また、ウォーキングなどの有酸素運動は食事によって摂取したカロリーを消費し、内臓脂肪を燃やす点でも推奨される。さらには万歩計をつけるなどの工夫でモチベーションを高めることができる。万歩計によって歩数が少ない日はこれではいけないという気持ちになり、ウォーキングを継続させることにつながる。できれば1万歩を超えることを目標にするとよい。スポーツ施設にいってわざわざ運動するといったことをしなくても、普段から自分のペースで歩くだけでも十分な効果が得られる。

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