ドクターズガイド

再生医療

救世主として期待される心筋再生医療


心臓の病気で亡くなる人は年間約19万人(2012年調べ)で、がんに次ぐ2位。そのうちの約4割が心筋梗塞を含めた虚血性心疾患によるものといわれる。これらの病は心臓の筋肉にダメージを与え、機能しなくなった筋肉が自然に再生、回復することはない。これまでは治療の道は限られ、数少ない心臓移植のチャンスを待ちきれずに亡くなる人もいる。
その救世主とも期待されているのが、ここ十数年で大きく進歩してきた「再生医療」の分野である。
この期待に最前線で応え続ける慶應義塾大学福田恵一教授に、心筋再生医療の現状について話を聞いた。


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-心筋の再生医療、日進月歩だとは思いますが、最新の現状というのはどのようなものでしょうか。


 「再生医療」という言葉は2000年ぐらいから使われるようになりましたが、私どもが最初に行ったのは1995年ぐらいに始めた成体幹細胞の研究でした。この細胞は、もともと骨髄の中にいて、骨とか軟骨になる細胞なのです。骨とか軟骨になる細胞なら骨や軟骨以外にもなるだろうということで、我々は心臓の筋肉を作ることを考えました。そして4年ぐらいかかりましたけれど、1999年に骨髄の細胞が一部心臓の筋肉になるということを世界で初めて報告し、世界の人たちはすごく驚いた。ここから心臓の再生医療、再生医学というのが始まったのです。
しかし、この成体幹細胞は、確かに心臓の筋肉に変えることができるけれど、骨髄から採取して試験管のなかで培養しても、人の心臓の治療に十分なほどの量にならない。それがわかって、我々は方向転換しました。具体的には、1999年にイスラエルでヒトのES細胞が作られたので、これを応用してヒトのES細胞を用いた研究を開始したのです。そして、ヒトのES細胞から心臓の筋肉を作ることに成功しました。
そうこうしているうちに、2006年に山中伸弥先生がiPS細胞という細胞を作られました。この論文は我々にとって、すごく大きな衝撃でした。すぐに山中先生に慶應大学に来ていただいて、講演をお願いしました。そして、将来的にはES細胞の研究からiPS細胞の研究に変わるだろう思いまして、舵を大きくiPS細胞を用いた再生医療に転換していったのです。そして現在に至っています。

-ES細胞とiPS細胞の違いを簡単にご説明いただけますか。

 ES細胞というのはヒトの受精卵から作られます。最大の利点は、一定の条件で培養することによって、ひとつの細胞から無限に増え続けるということです。大量に細胞を必要とするような再生医療にとっては、成体幹細胞と比較して大きなメリットがあったわけです。では、デメリットはなにかというと、患者さん一人ひとりにとっては自分の細胞ではない。ES細胞から作った心筋細胞を移植するとしても、これは「同種移植」であって他人の細胞ということになりますから、当然免疫拒絶反応を受けます。成体幹細胞は自分の細胞ですので、もし、心筋を作って移植しても拒絶反応はないのですが、これを大量に作ることはできません。
このように、それぞれいい点、悪い点があるのですが、両者のいい点だけをとったのがiPS細胞です。自分の細胞でありながら、無限に増殖することができる。心筋の再生医療のように大量の細胞が必要なものにとっては、理想的な細胞なのです。

-それが2006年の時点でわかっていたということですね。

 最初はマウスで確認していたのですが、その翌年には山中先生のヒトのiPS細胞が発表されましたので、これは本格的にやるべきだと。そこからiPS細胞を用いた心筋再生へ研究の方向性を移してきました。

-現時点ではどこまで進んでいるのでしょうか。

福田恵一医師

これは、どのくらいの課題があってどのぐらいまで克服できているかということになると思います。課題のその1は、安全で効率的なiPS細胞の作り方、樹立方法を考える。iPS細胞というのは核の染色体の中に遺伝子を入れてしまうので、そこが安全性の面で問題とされていました。そこを克服する必要がある。
2番目に、iPS細胞を大量に培養する方法を考えなければならない。
3番目には、iPS細胞からできるだけ効率よく「心筋細胞」を作る方法を考えなければならない。
4番目には、iPS細胞から作った心筋細胞を増やすこと。この心筋細胞は胎児型で、まだ細胞増殖することができるんですね。できるだけ細胞をいっぱいにしなくてはいけないわけですから、その心筋細胞を増やすことを考えなくてはいけない。
5番目、これが一番大事なんですが、「純化精製」。iPS細胞から心筋細胞ができるとき、全部がそろって心筋細胞になればなんの問題もないんですが、そんなうまくはいかない。心筋細胞になると同時にiPS細胞として残っている細胞もまだあるんですね。ですから安全に移植するためには、心筋細胞だけをきれいに純化精製する必要がある。これが一番重要です。
最後の6番目として、iPS細胞を効率的に移植する方法を考えなければならない。

 この6つの大きなハードルがあります。我々はこのハードルを同時に越えなくてはならないということで研究を進めてきました。

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福田恵一先生(医師情報 ⇒)

慶應義塾大学病院 循環器内科 教授
慶應義塾大学医学部 卒業、同大学院修了。国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部国内留学、米国ハーバード大学医学部分子医学研究室留学、米国ミシガン大学心血管研究センター留学ののち、慶應義塾大学医学部助手。2005年より同大学再生医学教授、2007年より医学部長補佐、北里記念医学図書館長を経て、2010年より循環器内科教授。