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たばこを吸わなければ】2年に1回の検診で手遅れになることはない


生涯がんになる確率は男性55.7%、女性41.3%、つまり、今や2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなる時代。その中でも世界的に増加しているのが肺がん。肺がんは治療が難しいがんと言われている。国立がん研究センター中央病院呼吸器外科の淺村尚生医師に、肺がん治療の現状について話を聞いた。

※この記事は2014年1月にインタビューし掲載いたしました。その後2014年10月~「慶應義塾大学医学部」に異動されております。(医師情報)

-肺がんは増えているのでしょうか。


もともと肺がんは欧米に多く、日本ではあまり多くありませんでした。日本ではがんと言えば、胃がんと言われていましたが、70年代頃から増え始め、1993年には男性の場合、肺がんによる死亡率が胃がんを抜いて、トップになりました。しかし、肺がんの場合は、胃がんほど治癒率が高くありません。胃がんには、早期発見例の増加と治療法の改善にめざましく変化があったのに対し、肺がんは早期発見が困難で、胃がんに比べて有効な治療法が少ない状態が続いています。

がんの主な部位別死亡者数の年次推移

-肺がんの原因はすべて喫煙によるものですか。

喫煙者は減っているのに、肺がんに罹る人が増えています。実は、たばこを吸う人にできる肺がんとたばこを吸わない人にできる肺がんは、種類が違うのです。今、その非喫煙者の肺がんがとても問題になっています。原因がわからないので、予防のしようがない。ただ、たばこを吸わない人にできるがんは「腺がん」というがんで、一般に成長も非常にゆっくりなんです。定期検診でこのがんが見つかったとしても、まず手遅れになることはありません。たばこを吸わなければ、生物学的にたちの悪いがんはできないし、最低2年に1回CTを撮っていれば早期で見つかるはずで、そのときに処置すれば死亡する確率はかなり低いのです。たばこを吸っている人については1年に1回、CT検診をやっていても、そのあいだにできて手遅れになってしまう可能性があります。そもそも喫煙者は肺がんになるリスクが4倍以上高いのですから。

-喫煙者の肺がんのリスクはかなり高いのですね。

また、喫煙者の場合、肺がんになっているだけじゃなくて、慢性肺気腫(COPD)になっていて、肺機能が低下している人が多い。つまり、非常に劣化してだめになってしまっている肺の中にがんができてしまうのです。そうなると元々の肺機能が正常ではないので、手術もできない、放射線もかけられない。この場合、そもそもの治療自体ができないのです。だから、二重の意味でたばこは肺にとってはたいへんよくない。たばこの肺がんはたちがわるいというのはそういうことなのです。逆にたばこを吸わなければ、がんになる可能性は少ないし、できても成長のゆっくりした肺がんだから、2年に1回検診を受けていれば、まず手遅れになることはない。だから、声高にたばこの害を訴えているのです。

-対策としては、検診を定期的に受けることが大切なのですね。
どのような検査をどのぐらいの頻度で受ければよいのでしょうか。

アメリカの国立がん研究所が行った大規模な臨床試験があって、2011年に結果が公表されています。一定の喫煙指数を満たす肺がんのハイリスクグループといわれている人たち5万人の患者さんを無作為に分けて、25,000人は1年に1回、CT検査を受けて、もう25,000人は胸部X線検査を受けました。半分はCT検査、半分はX線のレントゲン写真。結果、CT検査群で肺がん死亡率が低下したのです。結論として、ハイリスク群の人については、CT検査はX線検査を行うよりも、早期発見が可能となり、肺がんの死亡率を低下させるという明確な結論が出たのです。肺がんの場合のハイリスク群に対するCT検診の有効性が、科学的に証明されたということです。喫煙をされている方は、年に最低1回はCT検査を受けてほしいですね。

-CT検査は大量の放射能を浴びるリスクもありますよね。

今は非常に線量が少ないCTがあります。相対的なリスクベネフィットで、低線量のCTなら受け続けたとしても、それによって発がんリスクが高まることもないだろうと言われています。日本でも普通の人間ドックでも低線量のCTのプログラムはたくさんありますから、だれでも受けられます。

-喫煙者の方は今から禁煙しても遅いですか。

禁煙のリスクは5年間禁煙すると、2分の1に、10年間禁煙すると非喫煙者と同程度まで減少することがわかっています。たばこを辞めてから長いほど、肺がんのリスクは減っていくのです。たとえ高齢でも喫煙継続者に比べて確実にリスクは減少します。

喫煙の害はそれだけではありません。たばこは、喫煙者本人だけでなく、周囲の非喫煙者にも影響を及ぼします。たばこの煙は喫煙者が直接吸い込む煙(主流煙)と火のついた先から立ちのぼる煙(副流煙)に分けられますが、副流煙のほうが、有害物質を多く含んでいます。受動喫煙で配偶者は女性で20%、男性で30%、肺がんリスクが増加します。喫煙者の方は家族や職場の仲間に対して、加害者になっていることを自覚しなければなりません。

-肺がんになると、どのような症状が出ますか。

肺の入り口の太い気管支にできるがんは早い時期に症状が出ます。その場合、最も注意したいのは血痰です。肺の奥の方にできるがんは、早期の段階ではほとんど症状はありません。健康診断によるX線や胸部CT検診で発見されます。肺がんが進行した場合は、胸の痛みや呼吸困難、発熱、声の嗄れなどの症状が現れます。肺がんに限らず、がんは無症状の時期に発見しなければ、完治は難しいとされています。

-もし、肺がんと宣告されたら、どのように治療法を選べばよいのでしょうか。

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肺がんの治療には、大きく分けて外科治療、抗がん剤治療、放射線治療があります。原則として、肺がんの組織型(種類)、病期(進行)、患者の身体的状態(体力)の3つの要素で治療方針が決まります。

肺がんにおいては、さまざまな組織型や病期においての標準治療がほぼ完成されています。まずは効果と安全性が確認されている正攻法の標準治療を受けることがもっとも賢明な選択です。

がんに関するニュースが新聞やテレビ、雑誌、インターネット上には、氾濫していますが、これらの情報に振り回されることなく、何が確実で何が不確かなのかを医師の診断の上、冷静に比較検討することが大切です。そのためには正しく豊富な知識を持ち、自分はどういう治療を受けたいのか、医師とどう協力して病気に立ち向かえばよいのかということを、納得するまで医師に相談することをおすすめします。

-最先端の治療にはどのようなものがありますか。

小さい肺がんの場合、手術で取るという方法や放射線で焼くという方法があります。また放射線のなかにも普通のもの、ピンポイント、東病院でやっている陽子線、稲毛の放医研(放射線医学総合研究所)でやっている重粒子線もあります。この中で保険が通るのは手術と普通の放射線だけです。ラジオ波焼灼もクライオといって冷凍凝固する方法もあるですが、これも保険診療ではありません。これらの高度先進医療については、まだ、効果がはっきりしていないので、選択肢の一つとして、適用のある患者さんで費用がかかってもよいという方にだけ行っています。

(2014.01.22.)

 


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淺村尚生先生(医師情報)

慶應義塾大学医学部 外科学(呼吸器)教授
慶應義塾大学医学部 卒業、国立がん研究センターレジデント、国立がん研究センター中央病院呼吸器外科医員、Mayo Clinic,Memorial Sloan-Kettering Cancer Center留学、1999年国立がん研究センター中央病院呼吸器外科医長を経て、2010年4月国立がん研究センター中央病院 副院長、2014年10月慶應義塾大学医学部 外科学(呼吸器)教授。
世界肺癌学会理事、アメリカ胸部外科医会、日本外科学会指導医・専門医、日本胸部外科学会指導医、日本呼吸器外科学会指導医・専門医、日本肺癌学会、General Thoracic Surgical Club代表世話人、外科専門医・指導医、 呼吸器外科専門医、がん治療認定医他。