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肺がん 臓器別がん死亡数はトップただし、早期発見ならほぼ治せる

■大切なのは早期発見 年一回のCT検査が有効

罹患数年間約8万人(04年)に対して死亡者数70,000人(2011年)。1998年以来、臓器別がん死亡のトップになりさらに増加している肺がんは、最も厳しい「がん」の1つである。
「肺がんと診断された方のうち、治るのはわずか20%程度です。手術ができる方が約30%。手術によって治る方は60~70%。30%×60%=18%で、だいたい20%ぐらいということです。ただこの頃は、抗がん剤や放射線治療等の治療結果もよくなっていますから、上積みはされてきましたね。」と語るのは、肺がんの名医として知られる『がん研有明病院』名誉院長の中川健医師だ。

がんの治療法は、病期(ステージ)によって異なる。病期は病巣の広がり具合で進行度0~4期に分類され、さらに1~3期は、軽いものはA、重いものはBに細分化されている。このうち「手術ができる」のは、どの段階までなのか。
「1期と2期は基本的に手術の適応になります。3期になると、軽いものは手術、重いものは抗がん剤と放射線による集学的治療に、4期は抗がん剤治療が中心です」(中川医師)
つまり、1期か2期のうちに発見すれば手術が可能であり、3期で手術になった人を含めて手術で治る可能性は60%以上もあるのである。

「がん研有明病院の成績では、早期と考えられる1A期の肺がんなら、92%は手術だけで治せます。これは疾患特異的な成績と言って、肺がんで手術された方の内、肺がん以外の理由で亡くなった方を除いた数字ですけどね。こうした他疾患で亡くなった方々まで含む成績でも88%は治っています。早く見つけさえすれば、肺がんは治せるんですよ。ですから、検診を毎年きちんと受けることは、非常に大切です」(中川医師)

とはいえ肺がんに関しては、検診を受けていたのに見落とされた、という話も耳にするが。
「それは、一般に行われている胸部単純Ⅹ線検査では、小さなものや淡い陰影を示すものは分かりにくい上に、陰になって見えない箇所(死角)があるためです。しかしそれでも、精度の良い検診を毎年きちんと受けている方は、検診を受けない方に比べて肺がんによる死亡の危険度は60%にまで下がっています。
さらに精度の高くなるCT検診なら、相当早い肺がんまで、見つけることが可能です。最近はCT検査機械が普及していますから、たまたまほかの病気でお腹をみてもらい、ついでに胸部を見てもらったら肺がんが見つかったという話はよくあります。肺がんは進行が早いですが、毎年CT検診を受けていれば、手遅れになる可能性は本当に低いのです」(中川医師)

■確定診断には細胞レベルの診断が必要 近年は胸腔鏡による手術の普及で低侵襲に

診療は問診に始まり、視診、触診、聴診、さらに血液検査、胸部X線検査と胸部CT検査で画像的に病変を確認するなど。喫煙者の場合はこれに喀痰細胞診が加わる。喀痰細胞診検査をするかどうかの基準は、喫煙指数が500以上の方。喫煙指数とは、1日の喫煙本数×年数をいう。

だが、これだけ多くの検査をしても、細胞診以外の方法では「がん」の確定診断には至らない。がんと確定するためには、細胞もしくはそのかたまりである組織を採ってきてそれを顕微鏡で調べなくてはならい。その確定診断目的の検査には、気管支鏡検査、CTガイド下経皮針生検・細胞診、外科的生検(開胸肺生検、最近は胸腔鏡使用が増加)の3つがある。

気管支鏡検査は、のどから気管支に細い内視鏡を入れ、病巣を確認しながら細胞を採って調べる。喉に局所麻酔剤を効かせて検査を行うため、胃カメラ検査程度の負担で検査ができる。

CTガイド下経皮針生検・細胞診は、CTで病巣を確認しながら皮膚の上から針を刺し病巣の細胞や組織を採ってくる。この検査は、肺を覆っている胸膜に外から小さな穴が開くので、そこから空気が漏れて、気胸という合併症が起こる可能性が10パーセントほどあるため、短期の入院が必要だ。

そして外科的生検は、小手術により直接腫瘍から組織をとり、診断する方法だ。
「気管支鏡検査とCTガイド下経皮針生検・細胞診で大体95パーセントは確定診断ができます。しかし近年は、肺がんでもサイズの小さなものが増えてきて、そのようなものの確定診断は難しく、診断率は低いのも事実です。そして、確定しない場合には、外科的生検になります。近年は胸腔鏡という技術が普及して、手術といっても負担の少ない開胸生検手術で診断がつくようになりました。最近はCT画像の精度が向上し、画像上肺がんがほぼ確実ということも判るものが増えてきました。そのような場合には術前の確定診断を省略して手術する場合もあります。しかし、治療方法が手術にならない方の場合には、原則として治療前に確定診断が必要です。」(中川医師)

「気管支鏡検査とCTガイド下経皮針生検・細胞診で大体95パーセント以上は確定診断ができます。しかし、それでも確定しない場合は、外科的生検になります。近年は胸腔鏡という技術が普及して、手術といっても負担の少ない開胸生検手術で診断がつくようになりました。最近はCT画像の精度が向上し、画像上肺がんがほぼ確実ということも判るものが増えてきました。そのような場合には術前の確定診断を省略する場合もあります。しかし、治療方法が手術にならない方の場合には、原則として治療前に確定診断が必要です。」(中川医師)

■チームでがんと闘う キャンサーボード

がん治療はチーム医療だ。神の手を持つ一人の名医ではなく、がん診療に関わる医療チームが一丸となって取り組むのが本当のがん診療だ。そのための方策として、取り入れる病院が増えているのが、がん研有明病院が先陣を切って始めた「キャンサーボード」という仕組みだ。
「キャンサーボードは患者さんの病態に応じた適切な医療を提供することを目的とする臓器別の検討会です。診断・治療に関わる内科、外科、放射線科や病理部、細胞診等々の医師、それから臓器によっては、看護師、薬剤師も加わり、一緒に検討して最善の治療を導き出します。呼吸器センターでは、肺がんの診療に関わる20人ぐらいが参加して、週1回、20人~30人の患者さんについて2時間ほどかけて検討します」(中川医師)

たとえば腕に自信の外科医であれば、目の前の患者に対して、どうしても外科的治療を行いたくなるだろうし、最新鋭の治療機器を導入したばかりであれば、その機器による治療をしたいと思うのが人情だ。しかしキャンサーボードでは、そうした医師個人の偏りは許されない。あくまでもエビデンス(科学的根拠)ベースでディスカッションがなされるからだ。またガイドラインは尊重されるが、体力などを含め患者の病態にあわせた最善の治療は何かが検討される。
「ただエビデンスベースでばっかり言っていると、新しい次の時代のものがでてきませんからね。チャレンジは必要です。それもやはり当院ではキャンサーボードにかけて検討し、患者さんにご提案することもあります」(中川医師)

■抗がん剤は『分子標的薬』へ 劇的効果の新薬も登場

治療は、外科療法と放射線療法、抗がん剤療法(化学療法)の三本柱を、ステージによって組み合わせるのが基本。
「最近の進歩としては、外科療法では、胸腔鏡手術の普及が大きいです。当院では2008年から、主に早期の肺がん(概ね1A期)を対象に、最長で3-4cm程度の傷3-4カ所でできる胸腔鏡手術での根治手術を導入しています。それから、極めて早期の肺がんには従来標準手術として行われてきた肺葉切除でなく、区域切除や部分切除(より小さい範囲での切除)も行うなど、機能の温存と手術の低侵襲化が進んでいます。また10年ほど前からは、手術の結果、1B期から3期までの方には、術後の化学療法をお勧めして、少しでも成績を向上させる補助化学療法が施行されるようになって来ました」(中川医師)

2010年には、抗がん剤療法の分野で大きなニュースがあった。それは新たな分子標的薬の登場。分子標的薬は新タイプの抗がん剤だ。
従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)は、がん細胞だけでなく、正常細胞も同じように、増殖する細胞を攻撃してしまう。そのため、がん細胞を殺そうとすると、正常細胞にもダメージを与える。辛い副作用が現れるのは、がん細胞も正常細胞も区別することなく攻撃するからだ。

一方、分子標的薬は、がん細胞が持っているある特定の増殖機能部分だけをターゲットにする。そのため、がん細胞には効果を発揮するが、従来の抗がん剤のように、正常細胞まで一緒に攻撃してしまうようなことはない。肺がんの分子標的薬としては近年非小細胞肺がんの一つである腺がんの一部でEGFRという遺伝子に異常があるがんに「イレッサ」がよく使われるようになっている。

その肺がんの分子標的治薬に、2010年、「ALK(アルク)阻害剤」と呼ばれる新薬が登場した。この薬は、「EML4-ALK遺伝子をもつ腺がん」に劇的に効くという。
「この薬剤もやっと臨床試験が終わり、2012年春から発売になりました。しかし、この薬が効くがんは、腺がんの5%ぐらいしかない事も事実です。しかし、分子標的薬による治療は、今後ますます有望と考えられ、盛んに開発が進んでいます」(中川医師)

三本柱の治療法以外にも、免疫療法やレーザー等、さまざまな治療法があるが、中川医師は選択については慎重だ。
「外科は何十年も歴史がありますが、放射線治療の最新の照射方法の歴史は10数年しかありません。たとえば、放射線をかけたところが、うまく落ち着いていてくれる率(局所制御率と言います)が85%から90%ぐらいあると、ピンポイント照射や重粒子線治療をしている医師は言いますが、現在はそうだとしても、何十年も経ったらどうかというのはまだわかっていないんですよ」(中川医師)

治療の選択肢が増えるのはありがたいが、同時に、選択や組み合わせのむずかしさも増すということなのかもしれない。それらの最新知識・技術を持つ専門家によるチーム医療は益々重要になるだろう。

(2013.7.4.)


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中川健先生(医師情報)

公益財団法人 がん研有明病院 名誉院長
1941年生まれ。東京大学医学部卒業、財団法人結核予防会結核研究所付属療養所外科、財団法人癌研究会付属病院外科、同院 呼吸器外科部長、同院 副院長、財団法人癌研究会有明病院 副院長(病院移転に伴う)、院長を経て、現在に至る。(母体である財団法人癌研究会は2011年4月より公益財団法人に変更)専門は呼吸器外科。