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パーキンソン病 長寿社会ならではの患者増加。社会全体の問題として

※このインタビューは2013/09/09に掲載したものです。その後2015/04月~病院長を退任、その後の(医師情報)は⇒ 

-パーキンソン病とはどのような病気ですか?

パーキンソン病というのは運動障害疾患のひとつで、年齢からいうと50歳から60歳、70歳、最近は高齢化して80歳代くらいの人にも起こる病気です。「振戦(しんせん)」といわれる手の震え、筋肉が硬くなる「筋固縮」、動作が遅くなる「動作緩慢」、それから転びやすい原因になる「姿勢保持障害」や歩行障害など、色々な症状を呈する病気です。

この病気は脳の病気で、脳の中脳に黒質といわれる部分がありますが、その部分の神経細胞が変性、脱落して、その神経細胞の投射先である線条体でドーパミンという神経伝達物質が欠乏して、このような症状が出てくると考えられています。

-パーキンソン病は遺伝的な要素はないのですか?

遺伝性のものはせいぜい5%以下といわれています。しかし、最近は遺伝子の研究が進んできて、いろいろな遺伝子異常が見つかっていますので、実際は孤発性と思われていても遺伝子上に異常がある例もあると思います。

-原因は解明されているのですか?

パーキンソン病の病態はある程度わかっているのですが、原因となる、なぜ黒質の神経細胞が減っていくのかということについては解明されていません。ですから、治療としては欠乏するドーパミンを補う治療が行われます。ドーパミンは血液脳関門を超えて脳内に入りませんから、その前駆体であるL-ドーパという物質を投与します。それが脳内でドーパミンに変換されて、ドーパミンの機能を補うことになります。この薬は昔から使われていますが、この薬を長期に渡って投与することは、生体にとってはマイナスの面もあります。まず、不足しているものを補っているだけですので、長期間効いているというわけではありません。また、いわゆる運動合併症といわれて、薬が効いている時間が非常に短くなって、症状が良くなったり悪くなったります。これを1日のなかで繰り返すことになり、この状態を「ウェアリング・オフ」といいます。

また、L-ドーパの副作用でジスキネジアという、揺れるような運動症状が出てくることがあります。ですから、治療戦略としては、L-ドーパに代わるような薬を上手に使い分けて治療しています。使い分けをするにあたっては、患者さんの年齢も考慮します。例えば若い人ではドパミン受容体刺激薬といわれる薬を使って治療を開始します。

-薬は最終的にはまったく効かなくなってしまうのですか?

服用しているうちに、だんだん効きが悪くなってきます。ジスキネジアという不随意運動は若い人に出やすいので、若い人の場合は、先ほど述べたドーパミン受容体刺激剤といわれる薬を使って、L-ドーパ治療を少し先延ばしするようにしています。そして、ドパミン受容体刺激薬で症状の改善が十分でないと判断したときに、L-ドーパを加えます。ほかにもパーキンソン病の薬としては、抗コリン薬、アマンタジン、FP、コムタン、トレリーフなど、たくさん薬があります。患者さんの年齢や症状に合わせて使い分け、患者さんにあった治療体系を組み立てるということが大切です。そのあたりは医師のテクニックでもあり、患者さんの症状や経過を見て薬剤を選択しています。

パーキンソン病は運動症状が主体ではあるのですが、最近はこの症状の原因となるドーパミンが欠乏すること以外に、ノルエピネフリンとかセロトニンなどのほかの神経伝達物質も足りなくなってくるということが分かってきました。その結果、いわゆる非運動症状といわれる症状もけっこう目立ちます。たとえば、便秘がひどいとか、起立性低血圧が起こるとか。暑くても汗をかきにくいとか、逆に汗をべったりかいてしまうとか、このような自律神経障害を伴う人がいます。その他にもうつ状態になりやすい人、病気が進んでくると認知症の状態になりやすい人など、運動障害とは関係ない症状を呈する人が少なくありません。睡眠障害も多く、夜なかなかよく眠れなかったり、夜中に目を覚ましてしまうなどの症状を訴える方もいます。夜よく眠れないと、翌日の調子が悪くなります。

そのほかにも体が痛むとか、非常に疲れやすいとか。我々は運動症状を治療しながら、あわせて患者さんの非運動症状を診察でうまく拾い出して、それに対する治療もしていくことになるので、パーキンソン病の治療は結構難しいのです。

-非運動症状の場合はどのように診断するのでしょうか?

診断は、運動症状がまったくなければ正直わかりにくいです。とくに便秘だとか睡眠障害といった症状は、運動症状が出てくる前に発症しているといわれています。その段階から治療を始めるかどうかはまた別の問題ですが、実際に手が震えるという典型的な症状が出てくる前に、もう病気は始まっている可能性があるのです。動物実験のデータでは、黒質の神経細胞が正常の大体20%ぐらいまで減らないと症状が出てこないといわれてます。逆にいうと、80%ぐらいまで減らないと症状が出ないのは、生体には代償のメカニズムというのがあるためとされています。実際、運動症状が出てくる前に非運動症状が出ていて、その症状だけで診断するのは本来、早期診断として重要なことですが、もともとある症状なのか、パーキンソン病の初期症状なのか判断するのは難しいのです。

最近は画像診断の技術や、髄液のバイオマーカーを分析する技術が進歩してきました。運動症状が出てこない非運動症状のステージであっても、黒質の神経細胞の変性に伴った線条体のドーパミンの欠乏をPETやSPECTといわれる画像診断法で見つけることが可能になりました。

パーキンソン病に伴う認知症も物忘れだけの時期があるのですが、アルツハイマー病のアミロイドの画像化と同じように、パーキンソン病でもそれが画像である程度わかるようになりつつあります。
このように、早期の段階から診断ができるようになってきてはいますが、果たして運動症状が出る前の非運動症状の時期から治療を始めたほうが良いのか、もう少し待って運動症状がでてきた段階から治療を始めたほうが良いのかということについては、まだ意見が分かれています。

先ほど述べた生体の持つ代償機能もいつかは疲弊していきます。疲弊を少しでも少なくするために、早めに薬を投与して、本来の生体の状態に戻しておくということも必要です。そのため、最近は早期から治療を始めたほうが良いという考え方が一般的になってきました。最初に投与する薬は日本と外国では考え方が違います。MAO-B阻害剤は外国では早期から使われています。この薬は神経細胞の変性も予防できると言われた時期があり、早期からの投与を推奨することが多かったのですが、現在では神経細胞死の過程を予防することはできないということがわかっています。

患者さんの状態に応じて薬を選択して治療することはガイドラインの中にも記されていて、多くの先生方がそれに基づいて治療しています。しかし、同じパーキンソン病と言っても、Aさん、Bさん、Cさんが全て同じ症状というわけではありませんから、患者さんの症状をみて、どういう薬で治療すれば良いかはそれぞれの先生の経験も生かして判断されます。具体的にいえば、手が震えているという人には抗コリン剤を使ったり、うつ的な状態で始まる人たちにはアマンタジンを一緒に使うなど、いろいろな工夫をしていると思います。

-薬物療法以外の方法もありますか。

薬物療法でも、ある程度までは治療できると思いますが、薬物療法では症状の改善が不十分だということで、最近は脳の手術(脳深部刺激療法:DBS)が行われ、患者さんによっては非常に良く効く場合があります。薬を減らすこともできるし、症状のコントロールもしやすくなります。

-それは、画期的ですね。脳に埋め込むのですか?

胸の上あたりに電極を埋め込み、ここから刺激を発するのです。ある一定の周波数で刺激を送ることで、脳の神経細胞の機能調整ができます。重要な治療法の一つになっています。

-現段階では、すべて対症療法ということですね。

今の治療法はすべて対症療法です。今後は壊れていく神経細胞をレスキューするという意味でiPS細胞のような細胞を移植することにより、薬の投与量を減らすことも期待されています。まだまだ研究の段階なので、今後それがどの様に使われるのか、どのような患者さんに使えば良いのかを検討していかなければいけません。

-IPS細胞は期待できそうですね。

網膜変性症はもう実際に臨床研究が始まったようです。パーキンソン病についても、京都大学が中心になってやっています。今後、患者さんを公募する準備を進めていると聞いています。これからですね。

-実用化は5、6年ぐらい先でしょうか?

そうですね。でも臨床研究は、患者さんごとに結果が変わってくる可能性がありますので、慎重に行う必要があります。

-パーキンソン病の患者さん自体は増えているのですか?

増えていると思います。というのは、日本全体が高齢化してますからね。高齢化でパーキンソン病が増えたというわけではありませんが、結局、薬も含めて医療が進歩し、長寿社会になったのです。以前は、パーキンソン病の患者さんは5年ぐらいで亡くなっていたので、パーキンソン病の全貌がなかなか見られませんでした。最近は20年でも25年でも治療する患者さんがたくさんいらっしゃるので、経過のなかでいろいろな症状がでてくるのです。例えば、以前パーキンソン病は、認知症を伴う病気ではないと言われていましたが、長い期間では認知症が出てきて、それはパーキンソン病特有の認知症だったりします。これを「レビー小体型認知症」と呼ぶ人もいます。幻覚とか妄想といった精神障害が出やすいので、薬の調整が必要となります。幻覚や妄想に対して、アルツハイマー病で使っている抗認知症薬も併用しますが、認知障害を中心に治療していると、患者さんの動きがかえって悪くなって動けなくなる人もいます。ですから、バランスをとりながら治療することが重要です。

パーキンソン病の治療では運動障害もそれに伴う運動合併症も診ていかなければならないし、非運動症状、精神症状もすべて診ていかなければならないので、かなりいろいろな知識を持ちながら対応していかなければならないと思います。

運動合併症や認知障害を伴うと、当然、生活に支障がでてきます。今後、そういう人たちがどんどん増えてきますので、どのように対応するか、社会全体で考えないといけない大きな問題になっています。

(2013.9.9.)


パーキンソン病の関連情報一覧 ⇒

吉井文均医師(医師情報)

東海大学医学部付属大磯病院
1975年3月 慶応義塾大学医学部卒業。東海大学医学部神経内科学教室助手をつとめ、Mount Sinai Medical Center留学。1988年4月より東海大学医学部講師、東海大学医学部老人性認知症治療研究センター長、東海大学医学部教授を歴任。東海大学医学部付属大磯病院 副院長を経て2011年4月 東海大学医学部付属大磯病院院長に就任。2015年4月 東海大学医学部付属大磯病院 神経内科 教授。