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顎変形症 噛み合せの異常を伴った顔の歪みやしゃくれは、健康保険と高額療養費制度を使うと10万円以下で治せる

※この記事は2013年8月にインタビューし掲載したものです。最新の情報はこちら⇒(医師情報)

-美容整形で外見だけ治しても、噛み合わせはメチャクチャ

病名をパッと見て「顎関節症(がくかんせつしょう)」と思った方は多いのではないだろうか。残念、不正解である。

顎関節症は、あごが鳴る、口を大きく開けられない、あごが痛い…を三大症状とする病気。一方顎変形症は、顎骨の異常によって顔貌の変形、咬合の異常をきたす疾患で、顎関節症とは別の病気だ。

顎を構成する上顎骨、下顎骨の大きさの異常、位置の異常、上下、左右のバランスの異常によって、上手く噛めない(咬合の異常)、話しづらい(構音障害)などの機能異常が現れるだけでなく、見た目の容貌にも「受け口」「出っ歯」「左右の歪み」といった症状が現れ、コンプレックスに苦しむ患者は少なくない。しかも問題なのは、この顎変形症が、外科手術と歯科矯正を併せた治療によって、健康保険の適用で改善できるという事実が、あまり知られていないこと。

「美容外科やエステの専門家が協力して、容姿のコンプレックスに悩む人をキレイに変身させてあげるテレビ番組がありますよね。あれにはよく、顎変形症の患者さんが登場します。美容外科医が手術して、見た目はキレイになりますが、噛みあわせのことは全然考えていなので、噛み合せがメチェクチャになってしまいます。恐らくあの番組に出られた方は、噛みあわせが崩れて、満足な食事ができなくなっていると思います。そのほかにも全身的な不具合が生じていることでしょう。

本来、顎変形症の治療は、1年以上かけて矯正歯科治療をし、10日ほどの入院で手術をし、さらに噛みあわせを整える術後の矯正歯科治療をして、3年ほどかけて行います。美容外科では、100万円以上かけても、見かけだけしか改善できませんが、我々の治療なら、健康保険と高額療養費制度を使えば10万円以下で、見かけも噛みあわせも治療ができます。でも、ほとんどの人はご存じありません」
と嘆くのは、大阪歯科大学附属病院院長の覚道健治歯科医師。長年に渡って日本の顎関節疾患の治療・研究を牽引してきた第一人者であり、2013年、日本顎変形症学会学術大会の大会長を務めることが決まっている。

かのテレビ番組では、まるで魔法のように短期間で変身し、うれし涙を流す出演者の姿が感動的ですらあるが、覚道歯科医師ら専門家としては、変身後に彼女たちを襲う噛み合わせの不具合や全身の不調を思うと「気の毒で仕方ない」のだと言う。
あごの問題は、外見を簡単に手術して済むものではない。噛み合わせは全身の健康に影響を及ぼす。それなのに、容姿のことなんだからと美容の領域としてだけ捉え、「疾患」だと認識せず、まして「保険で治せる」とは考えもしない人はあまりにも多いのではないだろうか。

-単に見かけを治すのではない 噛み合わせを正し、心も癒す

手術には大きく分けて、上顎骨、下顎骨といった骨全体を手術で前後、上下、左右に移動する方法と(骨切り術)、歯を含む骨の一部だけを切って動かし、噛み合わせと容貌を正しく整える方法がある。

全身麻酔下で行い、移動させた骨は人体に為害作用のない材料でできたネジやプレートで固定する。さらに「顎間固定」といって上下のかみ合わせを固定した状態で、顎の安静が保てるようにして手術を終了。以後、1週間ほどの辛抱の後、固定を外す。(ただし、手術方法によっては3週間固定する場合もある)。
基本的にはすべての操作を口腔内で行うため、顔の表面に後々まで残る手術瘢を作ることはない。
また手術に際しては、「自己血輸血」といって、手術の1週間前までに患者自身の血の貯血を行い、術中の出血に対処する。原則として下顎あるいは上顎の単独手術では行わないが、上下顎を同時に行う複合手術では400~800mlの貯血を行うのが一般的だ。貯血は1週間に1回の頻度で、1度に採血できる量は最大で400ml。また、希釈法による自己血輸血も行われている。これは安全性への配慮だ。

ところで、治療には限界がある。顔には様々な感覚器官が集中しており血液の流れが豊富な上に、骨の中にも太い血管や神経が通っているため、切る位置や方向、量には様々な制約や限界があるからだ。よって、誰もが望みどおりに顎の形を自由に変えられるというわけではない。見かけだけの改善ではなく、顎顔面の持つ重要な機能の調和を図るのが、顎変形症の治療なのである。

覚道歯科医師は言う。
「顎変形症は、疾患ですが、痛みはありません。しかし、心の痛みは大きい。治療することは、生活のハリと心のハリをもたらし、元気づけてあげる医療だと私は思っています」
取材の最中、覚道歯科医師から、多くの治療例の写真を見せていただいたが、そのなかには、美容整形とは違って、元の容姿の印象が保たれているものもあった。
「もっと変えることはできますが、患者さんは、これまでの自分も大切にしたいとおっしゃいました。そういう気持ちを尊重しながら、しっかり噛めるように治すのも、私の仕事です」

(2013.8.21.)


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覚道健治歯科医師(医師情報)

大阪歯科大学附属病院 病院長
1974年3月 大阪歯科大学卒業。大阪歯科大学口腔外科学第1講座 講師、大阪歯科大学口腔外科学第2講座 教授、大阪歯科大学附属病院 副病院長を経て、2008年4月より現職。日本顎関節学会(理事長 2012まで)日本口腔リハビリテーション学会(理事長)。第23回日本顎変形症学会学術大会 大会長(2012-2013)
主な著書は『口腔顎顔面疾患カラーアトラス』(永末書店 2012)、『歯科臨床研修マニュアル起こりうる問題点と解決法』(永末書店 2012)。