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脳卒中 寝たきり原因トップの疾患 治療法や薬は加速度的に進化中

-ロレツが回らない、手足がしびれる 発作が起きたら大至急救急車を

つぎのような広告を、目にした覚えはないだろうか。

心配げに電話する女性と救急車のコールセンターのやりとり…
女性 「なんでもないかもしれないんですけど…」
コールセンター 「どうしましたか?」
女性 「おじいちゃんが、突然右側の手足がしびれるって…」
コールセンター 「他に症状はありますか?」
女性 「言葉もなんだか変なんです。ロレツがまわんない、っていうか…」
コールセンター 「どのくらい前からですか?」
女性 「10分くらい。」
コールセンター 「わかりました。いそいで救急車が向かいます。住所とあなたの…」
NA 「片方の手足の麻痺やしびれ、顔の麻痺、ロレツが回らない、言葉が出ない。
それは脳卒中かもしれません。
ためらわずに一刻も早く救急車を呼んでください。
命の鍵をにぎっているのは、そばにいるあなたです。
ACジャパンは、日本脳卒中協会の活動を支援しています。」


上記は、ACジャパンが制作した脳卒中への迅速な対応を促すCMだ。


脳卒中は脳血管の疾病の総称。怒りが頂点に達したときなどに「脳の血管が切れそう」と表現するが、本当に切れてしまうのが出血性脳卒中。これに対し、なんらかの原因で脳の血管が詰ってしまう疾病を虚血性脳卒中という。脳卒中はこの2種類に大別され、出血性脳卒中には、くも膜下出血、脳出血。虚血性脳卒中には、脳梗塞、一過性脳虚血発作などがあるが、その原因として、頸部頚動脈狭窄が注目されている。
症状はCMにあるように、急に倒れて意識がなくなったり、半身の麻痺が起きたり、ロレツが回らなくなったりする。「前ぶれ」として、一時的な半身の麻痺や手足の痺れ、ものが二重に見える、話したいのに言葉が出ないといった軽い発作が起きていることもある。前ぶれの段階で早目に専門病院で受診することが大切だ。

-治療は時間との勝負 MRIや脳血管撮影検査はぜひ受けたい

発作が起きて救急車で運ばれた際、最初に行われるのはCT検査とMRI・MRA検査だ。MRI検査では脳のあらゆる方向・角度から切り取った断面図が、MRA検査では血管のみを抽出した立体画像を得ることができる。特にMRA検査は、自分の脳血管がどうなっているのかを、頭蓋骨を消した画像で見ることができるので非常にわかりやすい。
「CT検査は、脳出血やくも膜下出血の急性期の診断に役立ちます。ただしCTでは、血管の詰りは発症から6時間ほど経過しないと所見がでないので、CT検査で何もでないものの手足に麻痺が見られる場合には脳梗塞を疑い、ただちにMRI・MRA検査をペアで行います。発症してからの時間が短ければ短いほど回復率が上がる脳梗塞治療は時間との勝負。診断にもスピードが要求されます。うちの病院の場合は脳梗塞発症(片側手足の麻痺、言語障害など)から約5分以上経っていれば、どの血管が詰まったのかまで、ただちに診断がつきます」と昭和大学病院脳神経外科の水谷徹医師は言う。


一方急性期以外の検査では、頚動脈超音波検査、脳血管造影(カテーテル)検査、脳血流検査(SPECT)などがあるが、昨今、現場でよく使われるのが血管に造影剤を注射してCTにかけるCTA検査だ。
「カテーテル検査と比べてリスクがほとんどない上に、脳血管の状態を、立体的に見ることができる検査です。特に未破裂動脈瘤や頚動脈の狭窄の精密診断で威力を発揮しています」(水谷医師)


脳ドッグで異常が発見されるケースは年々増加している。40歳を過ぎたら、特に症状がなくても年に一度は定期検査を受けることをお勧めする。

-脳出血(くも膜下出血)の新しい治療法、コイル塞栓術にはマイナスや弱点も

最も重篤な脳卒中であるくも膜下出血は、その大部分が脳動脈瘤の破裂によって起きる。 「くも膜下出血を起こして運び込まれた患者さんは、脳動脈瘤からの出血がいったんは自然に止まった状態。でも放置すると再破裂の危険が非常に高くなるので、3日以内には再破裂を防ぐ治療をしなくてはなりません」(水谷医師)


標準治療は、開頭手術を行い、動脈瘤の根元を金属製のクリップで挟むクリッピング術と、脚の付け根からカテーテルを挿入し、血管内から瘤内にコイルと呼ばれる極細のワイヤーを詰めることで瘤をふさぐコイル塞栓術(脳血管内治療)だ。コイル塞栓術は1990年代に開発された手術で、開頭する必要がない低侵襲な治療法だが、マイナス面や弱点もある。
「一番の問題は10~20%の確率で動脈瘤が再発することです。それから手術中に動脈瘤が破裂することが約1%程度に起こり、その場合は止血のしようがありません致命的になることが多いです。また、動脈瘤の形状によってはできません」(水谷医師)
そんな理由で、日本ではまだくも膜下出血を含む脳動脈瘤治療(注:未破裂のものも含む)の3割程度しかコイル塞栓術は適用されていない。


2010年7月より、「頭蓋内ステント」という新しい医療器具が保険適用となった。ステントは柔らかい金属性のメッシュ状の筒。血管壁に内側からぴったりとフィットして、補強したり、血流を調整したりできる。このステントを瘤付近の血管内に留置し、網の隙間から瘤にコイルを詰めて、動脈瘤内への血流を妨げる治療が可能になったのである。
「お陰で、従来のコイル塞栓術ではふさぎきれなかった、根元がくびれていない形状の動脈瘤や、大きな動脈瘤の治療もある程度できる可能性がでてきました。ただやはり血管内に異物を挿入し留置するわけですから、血液をサラサラにする抗凝固療法をしないと一定の割合で血栓ができて脳梗塞が起きる。また、血管の湾曲や蛇行が強い場合にはカテーテルを挿入できないなど、いくつかの問題点は依然として残っています。しかし、非常に期待されているのは確かです」(水谷医師)


昨今、脳ドックやCT、MRI検査などによって、未破裂の脳動脈瘤が多く発見されるようになり、手術件数も増加傾向にある。外科手術では開頭クリッピング手術か巨大動脈瘤などではバイパス手術を併用した手術。血管内治療ではコイル塞栓術が行われているが、将来は、頭蓋内ステントを用いた治療が普及する可能性がある。
「開頭手術の最大のメリットは、ほとんどの形状の動脈瘤に対応できること、動脈瘤の再発がほとんどなく根治的な治療であること、術中破裂に対応できることですが、リスクは、数%程度の頻度で動脈瘤に張り付いた細い動脈である穿通枝がクリップをかけたことにより血流障害を起こし、障害の原因になってしまうことです。穿通枝の張り付いた動脈瘤や、脳底動脈の先端部など脳の深いところにある動脈瘤は、脳を傷つけるリスクが高く手術しにくいため、そうしたリスクが関係しない血管内治療が第一選択肢になっている施設が多いですね」(水谷医師)

-脳梗塞には治療の新兵器や 新予防薬があいついで登場!

脳梗塞の治療では、メルシーリトリーバー(頭蓋内血栓症除去カテーテル)という治療器具が2010年10月に保険適用になった。脳血管に詰った血栓をらせん状のワイヤーで絡め取って回収する器具だ。脳梗塞治療では、t-PAと呼ばれる血栓溶解剤薬が2005年に保険適用になり、画期的な効果を上げてきた。当初t-PAは「発症後3時間以内に用いなければならない」制約や、太い血管が詰った場合には効かないという弱点もあった。しかし現在ではこれも進歩し、時間的な制約は発症後4.5時間まで延びている。メルシーリトリーバーは、発症8時間以内まで使うことができるので、t-PAを適用できない患者の治療法として注目されている。
「血栓を物理的に取り除くメルシーリトリーバーは、t-PAでは溶かしきれなかった大きな血栓の回収に力を発揮すると思っています。ただ血管を破り出血することが一定の割合でありますが」(水谷医師)

血栓を強力な吸引で除去し、メルシーで強引に機械的に回収するより、血管に優しいというペナンブラというものもあり、現在ではこれも普及しているという。
「ただ、それもあと1年後ぐらいにソリティアという血栓回収用のステントが認可され そちらの方が成績がよいので、だんだんそれに移行していくでしょう。」(水谷医師)


2011年1月には新たな予防薬として抗凝固薬のダビガトラン(商品名プラザキサ)が承認された。「血液サラサラ」状態を保つことで、血管が詰まるのを防ぐ薬だ。なんと、この領域では半世紀ぶりの新薬である。
従来、脳梗塞の予防薬として使われてきたにはワルファリンは月に1度、効き具合をみながら、0.5ミリグラム単位で飲む量の調整が必要だったうえに、ブロッコリーや納豆などビタミンKを含む物に対する食事制限が必要だった。一方、ダビガトランは、ビタミンKと無関係に直接、血液を固めにくくするため、飲む量の調整が不要なうえ、食事も制限しなくてすむ。


かつて日本人の死亡原因として第1位を占めていた脳卒中。1965年をピークに減少し、現在は死亡原因の第3位となっているが、高齢者が寝たきりになる原因としては首位を譲らない。日本の脳卒中患者数は推定170万人とされ、2020年には300万人に達すると見込まれている。治療法、予防法ともに、今後の一層の進化が望まれている。

(2013.7.8.)


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水谷 徹先生(医師情報)

昭和大学病院 脳神経外科学教室 教授
脳卒中治療においては、全国でもトップレベルの手術経験を有するエキスパート。
1959年大阪府生まれ。84年東京大学医学部卒、86年同大学脳神経外科入局、総合会津中央病院、日赤医療センター、東京都立多摩総合医療センターなどを経て、2012年より昭和大学病院脳神経外科教授。
主な著書には『動脈瘤と動脈解離の最前線 別冊医学のあゆみ』水谷徹、小島英明編(医歯薬出版2001年初版)、『解離性脳動脈瘤の手術』(脳神経外科エキスパート)『脳動脈瘤』宝金ら編(中外医学社 2009年刊)「ハイリスク症例のCEA * 脳虚血の外科」塩川芳昭ら編(メディカルビュー社2009年刊)などがある。
*注 CEA : 頚部頚動脈内膜剥離術