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長引く痛み(慢性疼痛)の多くは「慢性のひどい筋肉のコリ」の可能性大

※このインタビューは2013/12/24に掲載したものです。現在は「横浜市立大学附属市民総合医療センター」に異動してます。(最新の医師情報はこちら ⇒)

-成人の15%が慢性の痛みに悩んでいる

「筋筋膜痛」と言われても、「何それ?」という人が多いだろう。実際、「筋の字が一個多いよ」と文字校正したくなるような病名だ。しかし、『病名に「痛」が付いた疾患で、受診者が最も多いのは?』(日経メディカルオンライン)という調査では、なんと「筋肉痛」よりも「神経痛」よりも上位にあたる6位に「筋筋膜性腰痛症」という病名がデンッとランクインしている。知名度は低くても、患者数は多いのだ。

では、「筋筋膜痛」とはいったいどんな病気なのか。一言でいえば「慢性のひどい筋肉のコリ」をさす。

「でも、コリなんてたいしたことないんじゃない?」と大概の人は思うだろう。確かに、ごく最近までは、「風呂にゆっくりつかって体を休め、2~3日も放っておけば治る」ぐらいに、医学界でも考えられていたらしい。

それも決して間違いではなく、普段あまり運動していない人間が、急に山登りしたり、ミニマラソン大会などに参加したとする。当然のように、翌日は足腰が痛み、足が腫れたりむくんだり、場合によっては熱を持つこともありうる。このような急性のコリなら、まさしく「風呂にゆっくりつかって体を休め、2~3日も放っておけば治る」。

しかし、「筋肉のコリにはもう一つ、別の種類があるのです」と東京慈恵会医科大学附属病院ペインクリニック科の准教授・北原雅樹医師は言う。
「もう一つのコリとは、何週間も何か月も、ときには何年間も続く、〝慢性の"筋肉のコリです。風呂やマッサージや十分な休息などによって、一時的によくなることがあっても、なかなか完全にはよくなりません。そのようなコリは、頭痛・首の痛み・肩コリ・背中のコリ・腰痛などとなって、長期間人を苦しめることがあります。 しかも困ったことに痛み止めは効きません。なぜなら、痛み止めは炎症や傷がある場合に効果があるもの。でも筋肉のコリの場合、炎症も傷もふつうはないので、効果がありません。むしろ、痛み止めを長期間服用することで、胃潰瘍や腎障害などの副作用を起こす可能性すらあります」

言われてみれば確かに、思い当たる痛みを抱えている人、少なくないのではないだろうか? 湿布薬を貼っても、痛み止めを飲んでも一向に改善しない「あの痛み」。

昨今、耳にすることが増えてきた病名に「慢性疼痛」というのがある。
ひどい肩コリ腰痛などで病院に行っても炎症や骨の異常は見つからず、画像診断(CTやMRI)、血液検査でも特徴的な結果はみつからない、数か月以上も続く原因不明の痛み。厚生労働省は今年、成人の15%が、筋肉や骨の分野で慢性疼痛と思われる症状を訴えている現状を発表した。

北原医師によると、この慢性疼痛患者のうちかなりの人が「筋筋膜痛」である可能性が大きいらしい。
「ただし、長引いていて、痛み止めが効かないからといって即、筋筋膜痛と思い込むのはいけません。痛みというのは〝複雑系“で、実にさまざまな要因が絡み合って生じるものですから。まずは専門のペインクリニックで診断してもらうことが大切です」
と北原医師は、慎重にくぎを刺す。

-「たぶん手根管症候群」も筋筋膜痛だったりする

肩コリや腰痛など、よくある病名(というか症状)で診断されているうちはいいが、筋筋膜痛は、ときに全く関連のない病気とよく似た痛みを引き起こし、違った診断をつけられ、治療されることもあるという。
「椎間板ヘルニア、繊維筋痛症、手根管症候群、子宮内膜症等々、いろいろな病気に診断され、長期間治療してるけれどよくならないといって来院される患者さんは少なくありません。なかには手術したけどぜんぜんだめ、という方もいらっしゃいます」

何を隠そう筆者も、手指の痛みで受診した整形外科で「典型的な症状ではありませんがたぶん手根管症候群でしょう」と診断され、一か月間処方された薬を飲み、塗り薬を懸命にすり込んだが、まったく変化がないので北原医師に診てもらったところ筋筋膜痛と判明。治療によって劇的な改善が見られ、驚いた経験がある。
「典型的ではないけど、たぶん●●」という診断は怪しいのだ。

さらに、最初は明らかな原因のある痛み(骨折・手術後の痛み・帯状疱疹など)が、もともとの病気やケガが治った後も痛みが続き、その原因が筋筋膜痛であることもあるとのこと。
「コリ」を侮ってはいけないのである。

-筋肉内刺激法はかなり痛いが入院・手術・副作用なし

診断の基本は問診だ。

筋筋膜痛の治療には、残念ながら今のところ「特効薬」はない。 対処療法として、

1.固くなっている筋肉をほぐす
2.筋肉を疲れにくくする

ことを目的とした治療を行う。
具体的には、「専門家の指導下での筋力トレーニング」「十分な深い睡眠」「ストレッチ・マッサージ」「鍼療法(筋肉内刺激法)」「リラックス法(呼吸法・瞑想法)」など。

なかでも北原医師が、筋・筋膜痛の治療法として推奨しているのが「筋肉内刺激法」だ。これは解剖学の知識に基づいたトリガーポイント治療の一種で、同医師が日本に紹介した。
その方法は、東洋医学の鍼治療に用いる細い針を、筋肉が硬くなって痛みを生じえる部分(トリガーポインント)にすばやく刺入し、すぐに抜去るというもの。

「かなり痛い治療法ですが、筋肉の硬さが取れてくると痛みが劇的に少なくなります。また、手術などのように非可逆的ではありませんし、あくまでも一過性のものです。痛みを治療するために、手術を受けたり、電極を入れたり、多種多様な薬を長期的に服用するのに比べたら、その侵襲度ははるかに少ないでしょう」

本当に痛い治療法だが、妙な副作用はないし、入院も手術もしないで済むのはありがたい。何より、長年の原因不明の痛みに、合点が行く診断と治療法がつくことで、救われる患者は多いはずだ。

(2013.12.24.)

 


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北原雅樹先生(医師情報)

東京慈恵会医科大学附属病院 ペインクリニック診療部長、麻酔科准教授
東京大学医学部医学科卒業、米国留学(Resident of Anesthesiology, University of Washington Medical Center)(Senior Fellow of Clinical Pain Service, University of Washington Medical Center)、東京慈恵会医科大学ペインクリニック診療部長、麻酔科講師等を経て、2009年4月より現職。
日本麻酔科学会 指導医、日本ペインクリニック学会 専門医、日本疼痛学会、日本運動器疼痛学会、International Association for the Study of Pain 他。