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破裂すれば高い致死率。健康診断で「大動脈も診てほしい」と伝える。


長寿・高齢化社会と生活習慣の欧米化により、患者数が急激に増加している大動脈瘤。症状がほとんどないため、気付かずにいて破裂すると、死亡率は80~90%ともいわれ、血圧が上がりやすくなる冬場は、特に気をつけたい疾患でもある。「大動脈瘤」について、山王メディカルセンター 血管外科 血管病センター長の重松宏医師に話を聞いた。

-「大動脈瘤」とはどんな病気ですか。


心臓から出た血液は全身に流れます。この血液を全身に送る血管が大動脈です。主に胸部と腹部に分かれ、血液が心臓から出て、胸に留まるパイプの部分が胸部大動脈で、横隔膜の下、腹部にあるパイプが腹部大動脈です。大動脈瘤は、動脈硬化の患者に発生しやすいといわれています。動脈の壁が動脈硬化などにより傷んでくると血圧に耐えられなくなり、形が維持できず、こぶのように膨らんできます。このこぶ(動脈瘤)が急激に大きくなると破裂し、大量に出血するため高い確率で死に至ります。血管が詰まる閉塞性動脈硬化症とは異なり、加齢による変性疾患と言われています。患者数が急激に伸びているのは、かなりの勢いで高齢化が進んでいることが原因です。現在、日本の人口で65歳以上の割合が25%と言われており、これが2020年にはおそらく30%以上になると考えられます。今後も高齢者が増え続けると、患者が増え続けると考えられます。

-患者の年齢層や男女の比率を教えてください。

私たち、医師が手術をする平均年齢は男性では72~73歳が一番多いのですが、患者としては50代~90代まで幅広く見られる疾患です。患者は、男性が圧倒的に多く4対1の割合です。女性の場合は、閉経してから時間が長ければ、男性化してくるので80代、90代になってから、大動脈瘤がみられる方は、結構おられます。

-遺伝的なものも関係しますか。

家族性の大動脈瘤も2~3%程度ですが、報告されています。脂質異常症や糖尿病を持っている家系だったり、高血圧、喫煙、肥満であったりと、動脈硬化を進展させる要因を持っている家系であれば、結果的に動脈瘤ができることはありますが、動脈瘤そのものが遺伝しているのかは不明です。動脈瘤を助長するような遺伝子を持っている可能性はあるかもしれません。

-大動脈瘤はどうやって見つかるのでしょうか。

大動脈瘤は、初めはほとんど症状がありません。胸部X線写真で異常な影を指摘され、初めて気づくことが稀ではありません。動脈瘤が大きくなり神経を圧迫し始めると、例えば、胸部だと反回神経障害で声が枯れてきたり、気管を圧迫すると呼吸困難になり、食道を圧迫すると食べ物をのみ込むことが困難になります。腹部では背中が突然引き裂かれるように痛み出すなど、背中や腰が痛くなる症状が現れることもあります。 胸部は、健診などの胸部X線写真でみつかるケースがあるのですが、腹部では、へそのあたりにドキドキと拍動するこぶを触れることにより発見されることが多く、痛みを伴うことはまれなため見過ごされることもめずらしくありません。とくに、太った人でおなかに脂肪がたまっていたりすると発見されにくいので要注意です。腹部の超音波検査やCT検査で分かります。たまに、動脈の壁の石灰化でレントゲンでも写るので発見される場合もあります。

検診は、動脈瘤が無ければ60歳から2~3年に1回ペースでいいでしょう。ただし、4㎝前後のこぶが見つかったら、半年に1回のペースで定期検診をおすすめします。一般の健康診断では、他の臓器に注意が払われがちなので、「大動脈も診てください」と一言伝えておくほうが確実です。

-発見された場合、どのような治療法がありますか。

大動脈の正常径は一般的に、胸部で3cm・腹部で2cmとされていますが、胸部でe5~6㎝、腹部で5㎝(女性4.5cm)以上の大きなこぶが見つかったら破れる確率が非常に高くなるので、手術をすすめます。また、直径5cm未満でも拡大速度が早ければ手術をすすめています。

大動脈瘤の治療には、「内科的治療」・「人工血管置換術」・「ステントグラフト内挿術」の3つの選択肢があります。大動脈のこぶがまだ小さければ手術は行わず、血圧を調べて高血圧があれば血圧を上げないように薬による治療を行います。しかし、動脈瘤を治す薬はありません。したがって、治療は外科的治療が中心となり、大動脈瘤が大きくなれば手術が必要となります。従来から行われている「人工血管置換術(ちかんじゅつ)」と、新しい血管内治療である「ステントグラフト内挿術」の2つから選択されます。

重松医師

人工血管置換術とは、破裂しないように人工血管で置き換える治療法です。人工血管は、布でできた構造物で、置き換えることで破裂の心配はなくなります。60年以上にわたって施行された術式で、治療法としてほぼ確立されており、死亡率も1~3%台と手術成績も安定しています。全身麻酔が必要で、大きく切開するので体への負担が大きいのが難点です。

最近は、脚の付け根ソケイ部よりカテーテルという管を大動脈内に挿入して、人工血管を大動脈の内側から固定する方法が広く行われています。この特殊な人工血管は「ステントグラフト」と呼ばれ、バネのような金属でできた構造物で、ステントがついています。大きく切らずに、ソケイ部から挿入する、身体への負担が圧倒的に少ない治療法です。高齢で、心臓病や肺疾患、その他全身の状態が悪い患者でも治療が可能となります。但し、新しい技術のため、長期の信頼性は確立されていません。定期的な経過観察が必要となります。現在、腹部の動脈瘤の50%はステントグラフト内挿術です。施設によっては80%以上施行しています。

-入院日数や費用の目安を教えてください。

個人差がありますが、ステントグラフト内挿術で3日から4日ぐらい、人工血管置換術でも10日~2週間くらいです。どちらの手術も保険診療で治療できます。人工血管の「ステントグラフト」は約160万円と手術料50万円の3割負担プラス入院費となります。

(2014.01.15.)

 


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重松宏先生(2014年1月現在のプロフィール  最新の医師情報はこちら⇒)

山王メディカルセンター 血管外科、外科全般、血管病センター長
東京大学医学部医学科卒業、米国留学、東京大学大学院血管外科学分野助教授、同医学部附属病院手術部長・中央診療部門長、東京医科大学外科学第二講座主任教授を経て、2011年より山王メディカルセンター血管病センター長。
日本血管外科学会名誉会長、日本脈管学会理事長、日本心・血管病予防会理事長、世界血管外科学会連合アジア代表、前国際脈管学会アジア部会会長、前アジア血管外科学会会長、日本心臓血管外科学会名誉会員、日本静脈学会名誉会員、日本 リンパ学会理事、日本血管内治療学会理事、他。