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大人の発達障害

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子供の頃や学生時代には気にならなかったが、就職してから集団の中で生きづらさや違和感を覚え、社会生活を送ることが困難となる。近年、「大人の発達障害」がテレビや雑誌にも頻繁に取り上げられるようになり、広く知られてきた。けれども、「発達障害」の概念を正しく理解されずに誤解されたり、医師の診断が過剰になったりするケースも珍しくない。
「発達障害」に関する著書を多数執筆している岩波明医師に、発達障害の現状や診断法、治療、支援やデイケアの取り組みについてお話をうかがった。

――「発達障害」は単独の疾患ではない

「発達障害」という言葉は、50年以上前にアメリカの法律の中で初めて使用されました。一つの病気を指すのではなく、アスペルガー症候群を中心とする自閉症スペクトラム障害(ASD)※や注意欠陥多動性障害(ADHD)、精神遅滞、(限局性)学習障害、コミュニケーション障害など、複数の疾患の総称です。つまり、発達障害という大雑把なカテゴリーがあり、その中の疾患についての呼び方(診断名)や分類、区別は曖昧なものもあり、時代によっても変化しています。

昔から言われていた自閉症や知的障害(精神遅滞)は生まれ持った病気で、大人になっても治らないというのは一般的に認識されています。けれども、アスペルガー症候群や軽度のADHDは小児の頃に症状があっても、成長するにつれて、症状が軽減するか改善すると思われ、それを検証するための研究は長い間行われてきませんでした。ここにきて(1990年代以降)、大人になっても改善が見られなかったり、別の形で症状が続いていたり、実生活に支障が出ている人が実は少なくないということがわかってきたのです。

わかりづらくしていたのは診療体制にあります。発達障害は主に小児科医が診療を担当していたため、患者さんが成人になると、小児科の担当医から手が離れるため、診療や治療が中断されます。日本では成人期の発達障害の臨床を経験している医師がほとんどいないのが現状です。大人の発達障害は新しく確立された概念でもあり、研究している医師やカウンセラーが少なく、精神科医の間でも診断技術が浸透しているとはいえません。

※アメリカ精神医学会によるDSM(精神疾患の診断基準)の第5版(2013年発表)によると、「アスペルガー症候群(アスペルガー障害)」という単独での用語は現在では使用されていない。

大人の発達障害

――大人の発達障害の診断の決め手は子供時代の通知表

大人になってから突然発症すると思っている人も多いのですが、発達障害は生まれつきのものです。また、親のしつけや愛情不足が原因としてみなされることはありません。診断には、他の病気がないかどうか、画像や血液検査をすることもありますが、特に重視されるのは問診です。通知表があれば持参していただき、子供の頃の成績や生活態度、性格などで診断を行います。

発達障害の原因はまだ解明されてはいませんが、親、兄弟、親戚の中で同じ悩みを抱えている人が他にもいたり、家族内で対人関係に問題を持っているケースが多いことから、遺伝的な要因も大きく関与していることは明らかになってきています。

大人の発達障害

――小児で見逃されて、大人になってから気づく

大人の発達障害で主要な疾患はASDとADHDです。二つを合併していることもありますが、二つの疾患を比較して圧倒的に有病率が高いのはADHDです。区別としては、ASDの場合、特定のものに対して強い興味を示したり、機械的な動作を繰り返しするのが特徴です。小児期の総人口の5~10%、そのうちの60~80%が成人期に移行すると報告されています。いろいろな調査結果から、成人全体の3~5%程度、診断基準を満たさないレベルも含めると、総人口の10%以上いるのではないかと言われています。

ADHDは多くの場合、子供の頃にミスや忘れ物など、何らかの症状は見られても、問題行動を起こして大きなトラブルにならない限り、ほとんどの場合、成長の一過程と見なされ放置されます。大人になって仕事の責任や取り巻く環境が変わり、対人関係や仕事上のミスでトラブルを抱えることで受診し、診断されてから気づくことが多いのです。忘れ物やなくし物が多い、人の言うことをきちんと聞けていない、簡単な間違えを何度も繰り返す、段取りが苦手、同時に2つ以上の仕事をこなせない、時間管理ができないなど、正常以上の知能を持っているにも関わらず、パフォーマンスを十分に発揮できず、自己肯定感が低下し、自信喪失に陥ります。さらに精神状態が不安定となり、様々な精神疾患を併存していることが多いのです。

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