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てんかんについてもっと知ろう

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てんかんは、脳の一部が突然興奮状態となる「てんかん発作」をくりかえす病気です。意識を失う発作や、目に見える痙攣だけでなく、症状は患者さんによってさまざまです。国や人種を問わず100人に1人が持つ、いわばありふれた神経疾患です。ここ数年、てんかん発作が原因とみられる重大な交通事故が相次いだことにより、てんかんへの偏見、差別が強まっています。東北大学病院てんかん科 中里信和医師は、てんかんへの正しい知識の普及こそが、患者を救い社会全体を活性化すると訴えています。

-てんかんはどのような病気ですか。

てんかんの原因は脳にあります。脳の神経回路の過剰興奮がてんかん発作で、てんかんはこれを繰り返す疾患です。国や人種を問わず人口の約0.8%がもつ疾患であり、日本では100万人の患者さんがいると推定されています。赤ちゃんから高齢者まで、どの年代からでもいつでも罹る可能性があります。原因は様々で、脳腫瘍や頭部外傷後遺症などの明らかな原因がある場合は「症候性てんかん」、原因不明の場合は「特発性てんかん」と呼ばれます。患者さんの大部分は適切な抗てんかん薬の服用で発作は抑制され、通常の社会生活を支障なく送ることができます。一部の患者さんは、薬で発作を抑えられない「難治性てんかん」と呼ばれますが、外科治療などの専門治療も急速に進歩しています。一般の方だけでなく医療者においても、てんかん発作のみが病気の症状だと思われがちですが、多くの患者さんは発作のないときの症状や、偏見にもとづく精神的苦痛を受けています。てんかん診療では、てんかん発作以外の症状や悩みの解決も重要です。

てんかんは古代からよく知られた疾患であり、差別や偏見という悲しく長い歴史を背負っています。医学的な進歩にもかかわらず、近年の不幸な交通事故の影響などもあり、てんかんへの認識はさらに偏った方向に転じているようです。発作が止まってふつうの生活が送れる患者さんの割合は、ちゃんと診断されていれば最初の薬で5割、2番目か3番目の薬で6割といわれています。しかし、不十分な診断によって誤った治療を受け続けることにより、「みかけの難治」と呼ばれる患者さんがいることはたいへんなげかわしい事態です。

てんかん医療で一番大切なことは、てんかんの有無にかかわらず、その患者さんにとってベストな人生を考えることです。元気な若者や働き盛りなら、安心して車が運転できるようにしなければなりません。そのためには発作が少なくなるだけではだめです。日本の法律下では、2年以上、発作をゼロに抑えなければなりません。発作ゼロだけではなく、薬の副作用もゼロにしなければ、勉強や仕事に影響が出てしまいます。本来はこのような理想的なゴールを達成できるはずの患者さんが、不十分な治療によって「みかけ上の難治」に陥り、社会復帰できない状況が少なくないのです。発作ゼロ、副作用ゼロに加えて、将来への不安もゼロにすべきです。たとえば、注意事項を守れば多くの患者さんが妊娠、出産、授乳を普通通りに行えるにも関わらず、一部の医師は、てんかんという病名だけで、今だに「妊娠禁止」や「授乳禁止」と誤って指導するケースもあります。

「てんかん発作」と間違えやすいエピソード

長らく抗てんかん薬を服用している患者さんの3割以上は、てんかん以外の別の病気や病態による発作を繰り返していると言われています。全身が硬直してふるえると「全身痙攣」と呼ばれてしまい、てんかん以外の原因によるものでも抗てんかん薬の長期服用が開始される危険があります。代表的なものとして、アルコール依存症やベンゾジアゼピン系薬の依存症の方が離断症状を起こした場合、全身痙攣を引き起こします。病歴聴取が不十分だと、抗てんかん薬が処方されますが、本来の原因である依存症を治療しない限り、発作は何度も繰り返されます。また神経調節性失神とよばれる病態は、自律神経系のアンバランスによって脳への血流が一時的に低下し「失神」とよばれる意識障害を呈します。このとき四肢が硬直したり、痙攣することもあるため、専門医であっても目前の失神を全身けいれんと誤診しがちです。心臓の不整脈で心臓が止まっても失神しますから、意識消失を繰り返すだけで、てんかんと早合点するのは危険です。

ビデオ脳波モニタリング検査の重要性

てんかんの患者さんの多くは専門医が外来診療を行うだけで、十分な治療が可能です。しかし、約3分の1の患者さんでは外来治療だけでは問題を解決できません。てんかんでは発作の瞬間をとらえて病態と脳波を解析するのが一番です。そのためには入院して、脳波とビデオを長時間記録する検査が必要です。この長時間ビデオ脳波モニタリング検査により、3割以上の患者さんで、てんかん以外の病態による発作が確認されます。つまり、長年、抗てんかん薬を服用している患者さんの3割以上が入院による長時間ビデオ脳波モニタリング検査で、てんかんが否定されるのです。しかも、この検査では発作症状と脳波所見から、てんかんの病型も明らかになります。これによって、適切な薬剤治療が選択できますから、患者さんの人生を良い方向に大きく変更できるのです。残念なことに我が国では、この検査を行える施設はきわめて限られています。

―そんな重要な検査なのに、なぜ普及しないのでしょうか。

一般の医師の中には、長時間ビデオ脳波モニタリングという検査の存在すら知らない方が大勢います。てんかん専門医であればもちろん、この検査の重要性は認識していますが、残念ながら診療報酬の点数があまりにも低すぎて、病院経営上は赤字となってしまうため、よほどの専門病院でない限り、この検査をすすめていないのが現状です。なにしろ長年、抗てんかん薬を服用した患者さんの3~4割でてんかんが否定できるのですから、本来は十分な診療報酬のもとに検査を実施した方が、その後の医療費を大幅に節約できるはずです。てんかんは慢性疾患で、患者さんは通常、生涯の服薬を必要としているわけですから。しかも、発作で救急搬送された時の医療費を考えれば、誤診による漫然とした治療がもたらす無駄な医療費は、正しい入院検査で削減されるべきです。つまり、患者さん個人のためだけでなく、国家の財政上も、この検査の普及が必要なのです。

これまでてんかんの診断のために受けた検査はありますか。(いくつでも)

―どんな方が、長時間ビデオモニタリング検査を受けるべきでしょうか。

ひとことで言うと、外来診療では悩みが解決されていない患者さんすべて、になります。繰り返しますが、てんかん診療のゴールは「発作ゼロ、副作用ゼロ、悩みゼロ」の三つのゼロです。もちろん、なかには小児期から重度の精神発達遅滞をもつお子さんなどの場合、発作がゼロになっても生活の質は現在と大きく変わらない、という場合がありえます。また高齢者で認知症を有している方などで介護生活をされている方の場合も、発作の有無はそれほど生活の質に影響しないでしょう。逆に、この長時間ビデオ脳波モニタリング検査を絶対に受けるべきなのは、脳障害がゼロか軽い方で、若くてこれから教育を受けるべき方や、働き盛りの方々です。こうした方では、三つのゼロが達成された場合、人生は大きく変わります。このような患者さんがいたら、治療を主治医にすべてまかせきりにするのではなく、入院によるビデオ脳波モニタリング検査を実施している施設に紹介してもらうことが大切だと思います。残念ながら我が国でも諸外国でも、てんかんの専門医資格を持っている医師でさえも、外科治療に消極的だったり、ビデオ脳波モニタリング検査をすすめようとしない方もいます。患者さんに訴えたいのは、てんかんを決してあきらめることなく、ご自身で納得のいく医療を選んでいただきたいということです。

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