ドクターズガイド

2010年の国立社会保障・人口問題研究所の調べによれば、不妊の検査や治療を受けたことのある夫婦は「6組に1組」。日本は、体外受精の実施数は年間24万2000件(日本産科婦人科学会調べ)で世界最多、不妊治療専門クリニックは全国でおよそ650と2位のアメリカの約1.5倍以上だという。体外受精先進国でもある日本の晩産化の現状について、セントマザー産婦人科医院院長の田中温医師に聞いた。

第1話 卵子は急激に老化する

―日本ではここ数年で不妊治療者の数が急増していますね。

田中温医師:「はい。しかも、高齢化しています。日本の不妊症治療には、体外受精を含む高度生殖医療(ART)の治療者を対象に、国から助成金が支給されています。日本産婦人科学会が義務付けた個別調査票によると、31万1804例の症例の集計の平均年齢が39歳です。これは世界一高齢で、40歳以上が全体の34.3%、38歳以上が50%。これだけ高齢化しているということです。けれども、40歳を超えると、妊娠率は一気に下がります」

日本産婦人科学会における年齢別ART施行者数の推移

―40代で妊娠しづらいというのは何が原因ですか?

田中温医師:「ほとんどの場合が卵子の老化です。少ない割合ですが、44歳ぐらいまではなんとか妊娠する可能性もありますが、45歳を超えると、ほとんどゼロに近い状態です。要するに35歳を超えると、卵子は急激に老化が始まります。40歳以上になると妊娠率が下がり、たとえ妊娠したとしても流産する確率がかなり高くなります。40歳以上の方で流産になる原因としては、約70%が染色体異常です。染色体異常の理由で最も多いのがトリソミー。トリソミーというのは染色体が一本多い。細胞1個が分裂して二つになるときに、卵の細胞質にあるチューブリンというタンパク質、これが集合して紡錘体を形成し、ひもの役目をして両方へひっぱってくるのですが、このときに若ければ同じ本数だけいくから正常細胞がどんどんできてきます。ところが年齢が高い方の場合、このチューブリンというタンパク質の機能が低下し、1本多くなったり少なくなったりします。本来なら2本ずつ、これが正しい。これが1本となったり、3本となってしまいます。21番の染色体の数が一本多い症例がダウン症です。このチューブリンという卵子の細胞質の中にあるたんぱく質の機能が老化で低下するためです。そういうことで40歳以上になると、ダウン症児を出産する確率が若い人の約10倍高くなると報告されています。また、女性は誰もが大体50歳位で閉経を迎えなければいけない。もし急激に閉経がきたりすると、体の中の状況が急激に変わるわけです。今まで正常だったホルモンが1カ月でゼロになるとしたら、これははっきり言って病気になります。そうならないように、徐々に落ちてきている。だから、このように体の中で変化が起きたりするのは、ある意味では正常な生理現象なのだけれど、子どもを作るという観点からみると、これは非常に厳しいということになる。だから、それは決して体に異常があるから子どもができにくい、そういうことではありません」

-老化した卵子は何が問題なのでしょうか。

田中温医師:「卵子の数には限りがあります。卵は1個排卵すると500から1000個の卵が一緒に消えていきます。ですから、年をとると数がどんどん減っていく。最後はゼロになります。それと、卵は思春期より始まる排卵後も細胞は増殖しませんから、20歳の時に排卵した卵と40歳の時に排卵する卵は同じ時にできた卵です。老化は20代から始まっています。20年間ずっと寝かせたワインは熟成していいかもしれませんが、卵は違います。途中で紫外線を受けたり、卵子内での老化現象などの影響を受けている可能性が非常に高いです。だから、老化卵子は異常が多いのです。加齢とともに卵は確実に老化し、質が衰えていくのです。卵自体がどんどん老化することで、卵細胞質の機能が低下するため、染色体異常が起こりやすいということなのです」

第2話へ続く

田中温医師のプロフィール(もっと詳しい情報をみる⇒)

セントマザー産婦人科医院 院長
田中医師は1985年、国内で初めてギフト法(受精前の卵子と精子とを一緒に卵管内に戻す体外受精)による妊娠・出産に成功した、高度生殖医療の第一人者。特に、難治性高齢者不妊(高齢卵子)の治療においての実績があり、不妊症の福音ともいえるさまざまな治療法を確立してきた。無精子症治療をはじめとする、様々な男性不妊症の治療においても精子細胞を用いた顕微授精で継続的な実績をあげており、海外でも高い評価を得ている。現在は晩婚化に伴う卵子の老化を救う為の卵細胞質置換(卵子の若返り法)を、臨床への応用を目指して研究を続けている。

不妊症の関連情報(一覧)

[不妊治療支援の新制度について]

医療保険が適用されない体外受精について、年間所得が合算で730万円未満の夫婦を対象に、費用の一部を助成する、不妊治療支援の新制度について、厚生労働省の検討会(座長 吉村泰典慶応大教授)は、公費助成の対象を「42歳まで」とする年齢制限を2016年度から、また、39歳以下の人が助成を受けられる通算回数の上限を、現行の10回から6回に減らす回数制限を2014年度から実施する方針で合意した。 体外受精や顕微授精の治療費は1回当たり30~50万円程度。現在は、通算5年、計10回を限度に、1回15万円(採卵せずに凍結卵を使う場合は7万5000円)を給付している。給付回数は、1年目は3回まで、2年目以降は2回までだが、新制度では、助成を受けられる対象を42歳までと年齢制限を設け、年間の回数制限をなくす。また、40~42歳は通算3回まで、39歳以下は6回までとする。出産に至った9割以上が6回までで妊娠していることなど不妊治療の成功率や高齢出産の危険性から判断したという。年齢制限は、流産率や妊娠高血圧症候群などの危険が年齢と共に高まるため、40歳以降での不妊治療の成功率が低いといった治療実績を踏まえた。体外受精をした人の1回の採卵あたりの出生率は40~42歳は7~8%、43歳以上では1%(JISART調べ)

(2013年8月20日)


※厚生労働省「不妊治療をめぐる現状」より