ドクターズガイド

血管を強くする歩き方

血管を強くする歩き方(2)

人の老化は血管の老化

働き盛りの人にとって、血管を強くすることが大命題であり、そのために効果的なのが「速く歩くこと」ということはわかりました。

しかし、現時点で顕著な症状を感じていない場合、ただそうすればいいと思っているだけでは、意識を持ち続けるのは難しいものです。なぜ血管が弱くなるのか、なぜ血管が弱くなると脳卒中や心筋梗塞が起きやすくなるのか、そしてなぜ速く歩くことが血管を強くするのかという知識を持つことは、モチベーション維持につながります。

今回は、血管の状態が悪くなってしまう経過を知っておきたいと思います。

■血管が老化するということ

血液は、体中に酸素や栄養を届け、老廃物を運び去る働きをしています。また血液は心臓の拍動に合わせて、リズミカルな強弱をつけて送り出されます。弾力があってしなやかな血管であればスムーズに流れますが、他の臓器同様血管も加齢によって老化し、その弾力は失われていきます。

■血管の老化と高血圧

弾力がなくなった血管では、勢いの強い瞬間にその内壁に加わる圧力が高くなります。これが「血圧が高い」状態です。そしてこの状態にさらされ続けると、さらに血管に負担がかかって悪化し続け「動脈硬化」になります。こういった老化は、長年の負担の蓄積で進みますが、最近のライフスタイルの変化により比較的若くして血管が老化している人が増えています。

血管収縮型の高血圧

血管内壁にある内皮細胞は、血管を収縮・拡張させる指令を出すという役目を担っていますが、血圧が高くなって内皮細胞が傷つくとこの機能が衰え、拡張の指令が正しく出されず、ますます血圧があがることになります。これを「血管収縮型の高血圧」といいます。

体液貯留型の高血圧

体は、血中の塩分が増えると水分を貯めこんで薄め、塩分濃度を常に一定に保とうとします。塩分が多すぎれば血中の水分も増え、結果的に血流量が増え、内壁への圧力すなわち「血圧」が上がります。これは「体液貯留型の高血圧」です。

高血圧と言われる多くの方は、この両方の原因を持っていると言われています。

■動脈硬化

継続した高血圧は動脈硬化につながると前述しましたが、ほかに高血糖、コレステロール値異常、肥満、喫煙、ストレスなども大きな要因です。これらがすべて絡み合って及ぼした結果が「動脈硬化」です。内皮細胞は、血管拡縮のほかに「血管壁のバリア」「血栓となるかさぶたが必要以上に作られるのを防ぐ」という役目もあります。高血圧、高血糖、コレステロール値異常などが続くと、この機能が損なわれ、以下の様な進行へ進む可能性が高くなります。

内皮細胞のバリア機能が弱まる ⇒過剰なコレステロールが内皮細胞の下に蓄積される(アテローム) ⇒コブ状に隆起して血管壁を厚くする ⇒血管壁が硬くなる

これを「アテローム硬化」といい、進行すれば次のような症状につながることが考えられます。

  • 動脈の内径が小さくなって狭くなる ⇒ 心臓で起これば狭心症
  • 内膜が破れる ⇒ かさぶた(血栓)ができる⇒ 流れて血管が狭くなっているところで血流をふさぐ⇒ 脳で起これば脳梗塞・心臓で起きれば心筋梗塞
また、このようにして血管壁が厚く硬くなれば、その摩擦でさらにダメージを受けるという悪循環にも陥るのです。

危険因子

喫煙

喫煙で体内に取り込まれるニコチンは、心拍数をあげて末梢血管を収縮させます。これもまた血圧を上昇させて内皮細胞を傷け、動脈硬化が進む要因となり得ます。

肥満

脂肪細胞は、血圧を上げる物質を分泌します。肥満の方は脂肪細胞も増えるため、血圧が上がる傾向にもなります。そして高血圧が動脈硬化に結びつくわけです。

高血糖

血中の過剰な糖分は、タンパク質と結合してAGE,RAGEと呼ばれる化合物を作り出します。これらは血管を傷つけ、弾力を失わせて弱くし、アテローム硬化を促進します。

脂質値の異常

血中にはいくつかの種類のコレステロールが存在し、LDL-コレステロール (LDL-C、いわゆる悪玉コレステロール)と呼ばれるものは肝臓からコレステロールを運び出し、体の各所でホルモンの材料などとして使うよう配り、HDL-コレステロール (HDL-C、いわゆる善玉コレステロール)と呼ばれるものは余分なコレステロールを集めて肝臓に戻します。

肝臓にもどすHDL-Cが足りなくなり、肝臓から運び出すLDL-Cが過剰なると、コレステロールが血管壁に蓄積し、アテローム動脈硬化を促進します。

高血圧、高血糖、脂質異常などの危険因子は、ひとつあるだけで心疾患の危険度が数倍に上昇すると言われています。

■動脈硬化で起こる病気

動脈はあらゆる臓器につながっているため、直接、関接問わず動脈硬化が一因として起こる病気は、実に様々です。命に関わる脳梗塞や心筋梗塞などはよく知られていますが、必ずしも死につながらなくとも、生活に支障をきたす恐れのある病気も多く含まれます。

危険度大-脳動脈、冠動脈(冠動脈)、大動脈

大動脈、脳動脈、冠動脈など太い動脈での動脈硬化は死亡率が高い病気になり得ます。

【脳動脈】
脳梗塞
脳の動脈が詰まる。詰まった先へ血液が届かず壊死を起こし、麻痺などの障害を起こす可能性が高い。
脳出血
脳の動脈破れて出血し、出血した塊が脳を圧迫する。命が助かっても障害が残る可能性が高い。
クモ膜下出血
脳を包む膜の内側からもれでた血液の塊が脳を圧迫する。死亡率が高く、激しい頭痛を伴う。
【冠動脈(虚血性心疾患)】
狭心症
冠動脈が狭くなって心筋が酸素不足になる。胸に痛みを伴う発作を起こす。
心筋梗塞
冠動脈が詰まり、その先へ血液が届かず壊死を起こす。胸に激痛があり、死亡率は高い。
【大動脈】
大動脈瘤
腹部や胸部の大動脈にこぶができる。破裂すると大出血を起こし死亡率が高い。
大動脈解離
血管の中層(中膜)が裂ける。その瞬間に激痛が起こる。
閉塞性動脈硬化症、慢性腎疾患、エコノミークラス症候群
生活に大きな支障をもたらす可能性があります。
閉塞性動脈硬化症
動脈硬化により足の血管が細くなり血流が悪くなる。著しく悪化すれば壊死を起こし、切断を余儀なくされることもある。
慢性腎疾患
高血圧による腎臓細動脈の硬化が原因。悪化すれば人工透析が必要になることもある。
エコノミークラス症候群
足の静脈の中にできた血栓が肺の動脈を詰まらせて、肺塞栓を起こす。肺の血流が低下し、胸の痛みや呼吸困難を起こす。
このように動脈硬化全身の血管で起こる可能性があり、体中に悪影響を及ぼします。

■高血圧と診断されたら

加齢だけでなく生活習慣によっては実際の年齢に関わらず動脈の状態が悪化し動脈硬化となり、これが危険な病気につながる、そして動脈硬化の主要な原因は高血圧であるということがわかりました。もし「高血圧」という診断を受けたら、まずはこれを改善しなければなりません。

対処として、薬を使って血圧を下げる方法と、食生活や運動習慣を改善していく方法があります。高血圧になる原因のほとんどが生活習慣によるものですから、将来的にも生活習慣の改善を目指すことが最もよいといえますが、これは実現までに時間がかかることが多いです。その間も高血圧にさらされて、血管へのダメージは進むことになるため、この時間が長くなるのは望ましくありません。したがって、診断を受けた場合は薬で速やかに血圧を下げたり、血圧を上げるような病態が隠れていないか診察・検査を受けたりすることが必要となる場合があります。

高血圧と診断されたり、疑われたりした場合はまずは医師の診察を受けることをお勧めします。

■予防について

血圧計"

自分で血圧を測る

心臓は一日10万回以上も拍動し、同じ数だけ血管に圧力がかかっているわけですから、年齢が重なるほど血管は衰えます。幸いにしてまだ高血圧の診断を受けていない場合は、出来る限り予防しなければなりません。しかし体温と違って血圧は高くなってもほとんど自覚はできませんので、自分の血管の状態を把握するには、自分で定期的に血圧測定をすることをお勧めします。

最近は家庭で手軽に使える血圧計が入手できるようになりました。おすすめなのは手首で計るタイプのものより上腕で測るタイプのものです。起床後トイレを済ませたあと、朝食の前に数分間座ってから2回測定しして記録を続けると良いでしょう。

「速めに歩く」というシンプルな心がけで、これまで説明してきた危険な病気を避けることができるのです。

とはいえ、継続しなければ効果を期待できませんし、正しい歩き方でなければ、骨や関節にダメージを与えることになります。次回は「正しく速く歩く」ことについて、解説します。

(2014.11.13)

稲島司医師
稲島司医師

東京大学医学部附属病院 助教 地域医療連携部、循環器内科

医学博士、認定健康スポーツ医、循環器内科専門医 循環器内科専門診療をはじめ、生活習慣病の予防・改善に携わる。地域医療連携部の専任医師として、地域医療との連携推進にも力を入れている。


狭心症・心筋梗塞関連情報 ⇒

高血圧関連情報 ⇒

脳卒中関連情報 ⇒