ドクターズガイド

血管を強くする歩き方


今、日本人の死因の1位はがんですが、2位と4位は心臓や脳の血管の障害によるもので、合わせればがんを上回る勢いになっており、働き盛りの年代の命を奪いかねない怖い病気です。現代では8割以上は救命で助かるともいわれますが、後遺症が残ることも多く、その後の人生に大きく支障をもたらす可能性もあります。そのようなことにならないために、中高年以降になったら「血管を強くすること」を考えなければなりません。

東京大学医学部附属病院の稲島司助教は「速く歩いて」血管を強くすることを提唱しています。もっとも日常的に行う「歩行」に意識を向けることで、血管、関節、筋肉を鍛え、脳梗塞や心筋梗塞、関節障害を恐れない体を維持していくことについて、今回から3回にわたって連載していきます。

血管を強くする歩き方(1)

「速く」歩いて血管を鍛える

■中高年に増える「負のスパイラル」

管理職に就く年代の会社員は、仕事上歩き回ることも減り、大きく運動不足にかたむきはじめます。そしてここから

運動不足→動脈硬化の状態→心・血管リスク増大→簡単な運動でも息切れ→
運動を自制→ 足腰と心機能低下の促進→関節の病気と心臓疾患の発症→
さらに運動不足

という「負のスパイラル」が始まります。
2011年に13000人以上を8年追跡した調査でも、運動しない人は、運動する人の3.4倍の死亡率であるという結果が出ました。これは運動不足の危険性を顕著に表しているといえるでしょう。

■適した運動とは

「運動が必要」とはいえ、心筋梗塞や脳梗塞を避けるために血管を強くするには、適していないものもあります。いわゆる「無酸素運動」に当てはまる、息を切らすほどの激しい運動は、急激に血圧を高め、血管内側の内皮細胞にダメージを与えてしまいます。内皮細胞は血管の収縮と拡張をコントロールしていますので、これが傷むことで異常な収縮が起こり、一層、血圧の高い状態になり、むしろ血管の病気に近づくことになります。

この場合、選ぶべきなのはウォーキングを代表とする軽めの「有酸素運動」です。その強度の目安は、心拍数で決定されます。血管を鍛えるのに適した心拍数を目標心拍数といい、それは下記の計算で知ることができます。

最大心拍数=220-年齢

目標心拍数=最大心拍数 × 0.6 ~ 0.7

50歳の人であれば目標心拍数は102~119ということです。

■「速く」歩く

速く歩く

会話ができる程度の速めの速度で歩くとき、心拍数がちょうどこの目標心拍数くらいになります。「速めの速度で歩けば、血管を鍛えることができる」というわけです。自分の感覚では「楽に歩ける」~「ややきついと感じる」程度でしょう。最近は、手軽に入手できる腕につけておける計測器も販売されていますので、そういったものを利用して、心拍数をチェックしながら理想的なウォーキングを行うことも可能になりました。

■「速め」がいい理由

歩く速度は、健康の維持に大きなかかわりがあることがわかってきました。2011年にアメリカで34485人の65歳以上を解析した結果では、速く歩いている人ほど、長生きしていることが報告されています。また、2009年にフランスの65歳以上を平均5.1年追跡した調査では、ゆっくり歩いている人は、速く歩く人に比べて死亡率は1.4倍、心・血管疾患での死亡率は2.9倍という数字が出ました。

このほか、日本では、都会よりも地方に住む高齢者のほうが脳卒中が多いという報告もあります。この要因には、塩分摂取量が多い、車を使う生活で運動が不足がちということに加えて、歩くのが遅い、というのがあげられています。せわしない都会とちがってのんびりと歩ける暮らしも、血管を鍛えるという点では向いてはいないということかもしれません。

血管の病気を警戒する必要がある年代にとって、速く歩くことは健康維持に大変有効なことなのです。厚生労働省も、「健康日本21」で健康維持のための運動として歩行を推奨。「速く歩く」を目標に掲げています。

■骨にもよい効果

運動不足が招く負のスパイラルの途中に「足腰と心機能低下の促進」があります。これは骨や関節の障害につながるものですが、速歩きの負荷は骨格筋を鍛え、これらの対策にもなります。骨というのは刺激を与えないと栄養を吸収しません。骨や関節によいとされるサプリメントを摂取したとしても、ほとんどは胃腸でアミノ酸などに分解されて吸収されるので、厳密な意味では効果があるとはいえないのです。正しく歩いて刺激を与えるほうが、確実に骨に栄養が届きます。
しかし、よくない姿勢や悪い癖のある歩き方では、逆効果の恐れがあるのも事実です。血管と骨を鍛えるために歩くなら、「正しい歩き方」のトレーニングをしましょう。 これについては、今後の連載で掲載していく予定です。

■歩く習慣をつけよう

「速めに歩く」ことの効用を知ったいま、実行すべきなのは歩く習慣をつけることです。目標としては、1日20分、もしくは8000歩、自分で少し速いなと感じ、うっすらと汗ばむくらい、また会話ができる程度の心拍数でのウォーキングです。
通勤する方はそこに組み入れれば、半強制的に習慣にできるかもしれません。そうでない方は、はじめはちょっと意識する必要があるかもしれませんが、やってみると、大変楽しく感じるでしょう。 いままで歩いていなかったと思われる方は、まずは一回、20分間の速歩きをやってみてください。

(2014.08.27)

稲島司医師
稲島司医師

東京大学医学部附属病院 助教 地域医療連携部、循環器内科
医学博士、認定健康スポーツ医、循環器内科専門医
循環器内科専門診療をはじめ、生活習慣病の予防・改善に携わる。地域医療連携部の専任医師として、地域医療との連携推進にも力を入れている。


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