ドクターズガイド

病気を調べる(家庭の医学)

人工臓器

特別な機能をいとなむ臓器の代わりができる機器、そういうものを人工臓器といいます。
これに対して、病気の臓器の代わりにほかの人から臓器をもらって植え込む、これを臓器移植といいます。

最近、新聞、テレビのニュースなどで、人工臓器や臓器移植がよく話題になります。
臓器移植については、別に解説します。
(臓器移植)
■人工臓器とは
ヒトにとってなくてはならない臓器がたくさんあります。
脳がまず第一です。
それから心臓、肺、肝臓、膵(すい)臓、腎臓です。

そのなかで、脳だけはコンピュータや精巧な機械をもってしても、代わりをさせることができません。
かりにもし人格や知能の代わりをする人工脳をつけるとしたら、それはその人でなくなってしまうでしょう。

それでは、ほかの臓器はどうでしょうか。
腎臓病でいちじるしく機能を障害され、尿毒症という状態になると、からだの中に蓄積した毒物のために脳がおかされ、昏睡(こんすい)状態になります。
そのような患者に対して人工腎臓が使われます。
これは、人工臓器の代表的なものです。

次の例は人工心肺です。
心臓をとめて中を開き、心臓の病気を手術して治す間、患者の心臓と肺の代わりをして、手術中も動脈血を脳をはじめとする全身へ送り続ける大切な装置です。

このように体外において、ある期間大切な臓器の代わりをする人工臓器が、第1群の人工臓器です。

第2群の人工臓器は、半永久的に患者に植え込む人工臓器です。
その例が人工血管や人工弁です。

人工臓器には、プラスチックや合成繊維、金属などの人工材料が使われます。
しかし、人工材料は万能ではなく、ヒト本来の臓器にまさるものはありませんので、部分的には生物材料を使う人工臓器もあります。
これをバイオ(生物学的)人工臓器、ハイブリッド(混合あるいは混血)人工臓器といいます。

■人工臓器の現状
人工臓器の開発・研究は必ずしも容易ではありませんが、医学と工学などの科学・技術の協力によって、しだいに複雑な人工臓器が実現し、患者の治療の役に立つようになってきました。

□人工心臓
冠状動脈硬化のために広範囲に起こった心筋梗塞や心筋症といわれる心臓病で、心不全が進行性のときには、心臓移植か人工心臓でしか救う方法がないという状況になることがあります。

1970年ごろから心臓移植が外国ではできるようになりました。
しかし、脳死患者からの心臓の提供はきわめてむずかしい問題があります。
そこで心臓の提供者が出るまで人工心臓をつけて生命を永らえるということが、80年代に入っておこなわれるようになりました。

これはアメリカの話ですが、1982年12月にユタ大学病院でクラークさんという心筋症末期の歯科医に、心臓移植を前提としない人工心臓だけの移植がおこなわれました。
人工心臓で1年以上は生きるようになりましたが、心臓移植のように20年以上生存するというような例はありません。

ポリウレタンゴムのような合成高分子のふくろでつくったポンプと、逆流を防ぐための人工弁で成り立っているのが人工心臓です。
心臓は血液のポンプですから、人工心臓の血液ポンプを動かすにはエネルギー源が必要です。

人工心臓はクラークさんの体外に置かれた圧搾空気駆動機で動かされていたために、クラークさんは圧搾空気のチューブと電源からのコードの長さの範囲でしか生活できませんでした。

その後アメリカで何人かの患者に、心臓を摘出していろいろの人工心臓が植え込まれました。
心臓移植へのつなぎとなった場合はよかったのですが、人工心臓だけで1年以上生存した患者はふえたものの、血栓形成(血液が固まってしまうこと)のため死亡することも多いのです。
心臓を摘出せず、一時的に心臓を補助する補助人工心臓がわが国でも使われています。
装置の改良に伴い、重症な心不全の救命成績も向上しており、心臓移植への橋渡しだけでなく、心筋炎や心筋症の回復例もみられるようになっています。

□人工弁
心臓弁膜症で心不全が強くなって、薬で治療できないときに手術をします。
手術も狭い弁を切って拡大したり、閉鎖不全を縫って逆流が起こらなくしたりすることで治ればよいのですが、弁の病気が重すぎると、弁を取り替えなければなりません。
あとに入れる弁が人工弁です。

人工弁は丈夫で長年はたらき続け、しかも血液がそこで固まらない材料と構造が要求されています。
円板状のもの、扉のように開くものなどいろいろ工夫され、現在、20年以上もつ人工弁が多数使われています。

そのほか、ブタの心臓弁やウシの心膜からとり、薬液で処理してヒトに使っても拒絶反応を起こさない生物弁といわれる代用弁も、たくさん使われるようになりました。

□心臓ペースメーカー
心臓の拍動の調子が狂った危険な不整脈の患者で、薬によっては治らないとき、ことに脈がおそくて具合がわるい場合には、心臓ペースメーカーというものを植え込みます。
このごろは心不全の治療のためにも使われます。
これは小型電池や電子回路を金属ケースの中に組み入れたもので、これにつないだ電極を静脈を通して心臓へ入れ、心臓を規則正しく電気刺激して不整脈を治すものです。

10年近くたちますと電池がなくなりますので、そのたびに手術し直して交換しなければなりませんが、たいへん有効な機械です。
心臓ペースメーカーは現在わが国で毎年1万人以上の患者に植え込まれており、生きる希望をいだかせるものです。
(臓器移植)
・ICD
植え込み型除細動器(臓器移植)のことで、心臓ペースメーカーのように体内に植え込んで、死に直結する不整脈である心室細動や心室頻拍が発生したときに、それを感知し電気ショックによって不整脈を停止させるものです。
心筋梗塞や心筋症で重症の不整脈を合併している患者やポックリ病など危険な不整脈を生じる人に使用して、きわめて良好な結果が出ています。

□人工血管
植え込むことができる人工臓器で、テトロンやテフロン繊維で織ったチューブ状の人工血管が、すでに半世紀以上の歴史をもっています。
血圧の高い大動脈の代わりをして、長年にわたり破裂もせず、血液が固まったりしてつまったりもせず、血管の代用物として使用されてきました。

最近、動脈硬化がふえてきましたので、大動脈だけでなく、下肢(脚)や上肢(腕)の動脈、脳の動脈のように細い動脈にも動脈硬化が進み、つまるという病気が多くなりました。
そのため歩けなくなったり、つまったための障害が、まれではなく起こるようになりました。

このような細い動脈にも人工血管は使われますが、6mm以下の細い動脈や静脈の場合は、血液が固まってつまるということが起こりやすく、今後の研究が期待されます。
大動脈瘤(りゅう)をはじめ、命取りになる血管の病気が人工血管によって手術で治るようになったことは、大きな福音といえます。

□人工腎臓
尿毒症(腎不全ともいう)の患者の血液を透析膜を通して洗浄する装置が人工腎臓で、1955年以来の歴史ある人工臓器です。
これを血液透析法ともいいます。
セロハン膜を透析膜としたコイル型から、現在は中空糸(ホローファイバー)を無数に並べたモジュール型のものへと変わって小型化し、透析の効率も進歩しました。

透析のほか、濾過(ろか)をおこなう人工腎臓、吸着をおこなう人工腎臓もできています。
尿毒症のときだけでなく、血液の水分量を急速に調節したり、血漿(けっしょう)を分離したりすることもでき、まとめて血液浄化法ともいわれます。

現在わが国では、30万人以上が人工腎臓の恩恵を受け、腎臓を両側ともとってしまった患者でも、週に3回の透析で何年でも生活している人がたくさんいます。
このような人々のなかには家庭透析といって、家庭で人工腎臓や簡単な腹膜透析の治療を自分で続ける人もあります。

しかし、人工腎臓治療が長期化するときは、腎移植がよりよい治療として推奨されます。
腎移植を待つ間、あるいはもし腎移植がうまくいかなかったときも、人工腎臓のほか各種の血液浄化療法がその間をつなぎます。
(臓器移植)
□人工肝臓
肝臓は大きな化学工場でもできないことをたくさんしています。
たとえば食物からたんぱく質を合成することです。

人工肝臓はむずかしく、1958年、生きたイヌの肝臓を利用した生物学的人工肝臓が発明され、応用されましたが、その方法には幾多の困難があり、中断していました。

ところが、65年ごろから、活性炭をつめた筒に患者の血液を流す活性炭灌流法(かっせいたんかんりゅうほう)や患者の血液を中空糸人工腎臓のようなものに流す血漿分離法ができました。
それによって、患者が昏睡(こんすい)からさめることがあり、肝機能補助装置といわれてきました。

現在、肝臓の細胞を培養して人工肝臓をつくる研究がおこなわれています。

□人工膵臓
膵(すい)臓から分泌されるインスリンが欠けると糖尿病になります。
血液のぶどう糖濃度に応じて必要なインスリンを自動的に注射する装置が人工膵臓です。

□人工血液
酸素運搬ができるヘモグロビン代用物をもつ人工血液は、輸血に代わるものとして、開発が続けられています。

ヘモグロビンに代わるものとしてフルオロカーボンや、保存期限切れのヒトの輸血血液のヘモグロビンを使用したり、合成の人工血液が研究されていますが、まだ臨床応用されるまでにはなっていません。

□人工骨、人工関節
骨折や骨・関節の病気に対して、ステンレス・スチールなどの金属、セラミック(陶磁器)などの材料でつくった骨や関節の代用物が患者に植え込まれています。

□人工中耳、人工内耳
難聴患者に対して、植え込み型補聴器とでもいうべき人工中耳の開発が進められています。
また内耳の神経を刺激する人工内耳もあります。
難聴の人々にどれくらい役立つかはかりしれません。

□その他の人工臓器
人工皮膚、人工歯など、広い意味の人工臓器はそのほかにもたくさんあります。
このように、人工臓器は欠けたところを補い、病気を治すのに、これからももっと使われるでしょう。
人工臓器や臓器移植をまとめて、このごろは再生医学(→臓器再生(再生医学)#1360-53)ということばができました。